『三年目の作家、として』
(しかし、これは軌道の修正ではなく、リアルのファンタジーへの転換であり、世界の破壊である。私の望まない転化。破壊の方向を変える)
俺は安らかに眠る目の前の女の顔を殴り付けた。何度も、何度も、何度も。
「神は死んだ、神は死んだ、神は死んだ!」
女の顔はみるみる腫れ上がり、赤らみ、黒ずみ、流血した。なおも殴り続ける俺を、女は何の脅えもない瞳で見上げていた。
「私は、愛することしかできない」
(これも私は望まない。更に思いを巡らせ、私はついに回帰する。つまり、書き出した瞬間、それは完結していると言える。私はやむなく定められた流れに沿って、また書き始める)
女は俺の愛撫にゆっくり目覚めると、徐々に強まる光に身を起こし、その滑らかな背中を影にした。
柔らかな逆光の中の、しなやかな流線型。女は導かれるように立ち上がり、カーテンに手を掛けた。
「朝って、やって来るものなの、それとも……」
女の影が止まった。細く開かれたカーテンの隙間から差し込む朝日に、タバコの煙が揺れている。影が振り返った。
「ねえ、どう思う?」
(女が人格を持ち始めた。男にも人格を持たせることにする。それは世界の開化と閉鎖とを意味する)
「ああ……ナナのように、きっと」
ナナはまたカーテンの外に目を戻した。
ベッドの下でしわくちゃに絡まり合った二人の服。波打つシーツが残したナナの跡。朝の光はいつもこのように俺たちを迎え、そして葬るのだ。
六月十二日、金曜日
(この日付けは節である。何故、私はこのように節を作らなければならないのであろう、いや、何故作っているのであろう。節の必要性。それは章も然り、段落も然り、更には句読点にすら言える。何故。
それを知るために、比較的容易なところで、句読点を省いて進めてみる)
「見ろよあのシトロエン」と俺が言うとナナは無防備にコーヒーを口にしながらそれを横目で見てそのカップを包むナナの指の一本一本が清楚でナナは「私日本車は嫌い同じ部品をいろんな種類に使い回しているから」と言ったから俺は「それはどこの国でも同じだ」と答えるとナナは視線をテーブルに落としてカップの口に残ったコーヒーをその清楚な指で拭くと「でも日本車とシトロエンは違うわ」と言った
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