『三年目の作家、として』
だが、少なくとも私にとってそれ以上はあり得ない理論であると言える条件は、私の死をもって初めて満たされるのであり、生前に、しかもここに理論構築を図りそれを記そうとする以上、不足はやむを得ないものとしなければならない。
しかし先に述べたように、これは構築作業の完了を宣言するものではなく、過程であり、経過報告である。そのことを読者であるあなたにも、後の私自身にも理解して頂きたい。
ある種、言い訳がましい前置きが長くなったが、上の四条件から自らの中に思い描かれた構築したい理論の内容は以下の通りである。
第一に、語の意味が成立する可能性とその効果である。
第二に、語の順序或いは反復の効果である。
第三に、表記法や語尾の効果である。
第四に、語と語の繋がり、主語と述語と修飾語の関係、そして語の量の効果である。
つまり、規定よりも効果の分析である。さらに、一語の理論から一文、一段落、一節、一文章へと視野を広げて行きたい。
第五に、文と文との繋がりの可能性、或いは広げて段落、節、章、同士の繋がりの可能性、つまり、文章の成立の可能性とその効果である。
第六に、語と語、文と文、段落と段落、節と節、章と章との間の描かれない部分、或いは空白の効果である。これは書かないものの効果である。
第七に、文章の量の効果である。
第八に、文章の流れの効果である。
第九に、描写とその効果である。
第十に、題名の効果である。
以上、私自身が寒気を催すような目標を掲げ、それらを僅かでも明らかにすることにより、ある語や文、さらに段落、節、文章の目的に沿った効果的な使用が可能になるのではないか。
しかし、これらを規定して行くために使用する判断理由、つまりこの理論を形成する公理というものが先立って規定されなければならない。まずそれを示そうと思う)
潤んだナナの瞳が俺を見つめていた。長いナナの髪の毛先が頬で揺れていた。繊細なナナの肩が震えていた。
「愛し合おう、愛さなくなるまで」
ナナの唇が艶やかに微笑した。
「直感は非言語的思考過程から出された結論である」
ナナは立ち上がり、身を乗り出し、俺に口付けた。倒れたグラスから伸びる水の膜。
「私、ゴダールの映画が大好き。優しくて残酷、現実的で非現実的、恐ろしくて滑稽。見つかった! 何が? 永遠が!」
振り向いて歩き、吹き抜けから階下を見下ろすナナ。悪戯に曲げられた片脚。奏でられるアコーディオン。ナナの鼻唄。回るプロペラ。人いきれ。
俺は煙草に火を点けた。
「だから俺は自分に感謝し、恨まずにいられないんだ」
ナナの美しさが弾んでいた。
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