『三年目の作家、として』
以上のことから、言語理論を構築するに当たっての公理を示す。
それは感受者が知覚できる効果でなければならず、しかも目的の達成に対して役立つ方式で言及されなければならない。その最上の目的は感受者にもたらそうとする感覚であり、そこから下って世界、描写と枝葉に分かれて行くのである)
高く澄み切った夜空。並木に降り注ぐ月光。ベンチに座るナナ。通りを疎らに過ぎるハイヤー。向かいに見える高層ビル。黒光りしたセンチュリーが停まる。
ドアを開く運転手。窓の明かりが疎らなマンション。帽子を被るナナ。白く高い月を見上げたナナの帽子。俺は煙草に火を点けた。暗がりに際立つ一点の赤い光。細く立ちのぼる煙。
「ナナ……何をしたい……愚かな問い」
通り過ぎるハイヤー。立ったまま、帰りを待つ運転手。澄み切った夜空。ベンチに座るナナ。帽子。肩。
「ナナ」
「ねえ……私がこれから話すこと、聞かないで……私、唯則に伝えたくて話すんじゃない、唯則に向かって話したいだけなの」
ナナが振り向いた。優しい瞳。寂しげにほころんだ口元。立ちのぼる煙。
「赤と青と緑なら、私は迷わず赤を選ぶの。でも、そこに黄色が入ったら、私はいつまでも迷って選べない。だって、そこから先は確かにあって、でも触れられなくて、いつまでも続くから」
立ちのぼる煙。立ちのぼる煙。立ちのぼる煙。
「自己批判なんて不可能だ」
「聞かないでくれて、ありがとう」
「嘘だ」
煙草を月に投げ捨てた。赤い光の点が放物線を描いた。ナナを抱きしめた。柔らかく、滑らかで、繊細で、美しい。俺の背中で広げられたナナの手の感触。
「明日はきっと晴れるね」
ナナの透き通った首筋。
「初めて聞いた」
ソワソワ立つ運転手。腕時計に目を遣った。
「ナナ」
背中でなぞられる「?」
「センチュリーに乗ったこと、あるか?」
左右になぞるナナの指先。駆け出す運転手。駆け込む入口に「TOILET」
「じゃあ乗ろう」
上下になぞるナナの指先。手を繋ぎ、歩き出す。軽やかに絡み合う指と指。弾んで渡る大通り。ドアを開け、ナナを乗せる。
今度は俺が白手袋。ゆっくりアクセルを踏み込んで、ヘッドライトがセンターラインを照らしたとき、後部座席のボスが笑った。
「海岸へ!」
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