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三年目の作家、として
 ボスの指令はこうだった。
「第一京浜から羽田線へ」
 バックミラーの中のボス。艶やかに伸びる脚を組み、煙草を燻らせている。俺の握るステアリングの向こうには、宙に浮かんだ外灯が、どこまでも伸びている。澄み切った星空を滑走路が貫いている。
「トゥルルル、トゥルル、トゥルル」
 電話の音。
「トゥルル、トゥルル、はい……ああ、ああ……」
 受話器を手に煙草を吹かすボス。窓の外に広がる星空に目を遣り、微かに溜め息をつく。
「……明日から君の席はないと思え」
 受話器を置くボス。
「いかがなされました」
「ああ……私が今、多くの人間を少しずつ奴隷にしている……つまり、私を奴隷の主だ、と言っていた……」
 煙草をもみ消すボス。
「だから、私は悪だ、と……停めろ」
 路面を点滅させるハザードランプ。車を脇に止め、俺はボスのドアを開ける。ボスはその艶やかな脚を路面に下ろすと、ゆっくり立ち上がり、俺に抱き付いた。
「……助手席が、いい」
(次に、有限である語の種類によって無限である事物の種類を表すことが可能であるのか、可能であるならば、どのような方法によってであるか、を考える。
 言語の伝達が可能であるということは、特殊が普遍を持つということである。言い換えれば、他の人間と同一ではない一個人が他の人間が持つものと同一な道具を持つということである。
 それは必然的に、一語が完全に限定されたある事物のみを表すのではなく、類似した他の事物をも表すものでなくてはならないことを意味する。端的に言えば、事物そのものではなく、事物がもつ性質を表すものでなくてはならないことになる。
 何故なら、例えば、私が今行っている「考える」ということとあなたが今行っている「考える」ということとが全く同質のものであるということは証明できないのであり、更に言えば、私が今行っている「考える」ということと私が過去に行っていた「考える」ということとが同質ではないのであり、言語が完全に限定されたある事物のみを表すのであれば、それぞれに別の名称が与えられなければならないからである。
 だが、実際にそれぞれに別の名称を与えてしまえば、言語の種類数は天文学的数値に上り、更に果てしなく増殖してしまう。そしてそれらが普遍性を持たないことは明白である。


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