『三年目の作家、として』
七月四日、土
(昨日、チャールズ・ブコウスキー著、青野聰訳の「町でいちばんの美女」を読んだ。いい短編が二、三あった。その外の短編にも、いい部分がかなり見受けられた。
そして思ったのが、これが思い上がりであることは確実だが、彼の書いたものは、まだ到達してはいないが、私が求めているものにかなり近いのではないか、と言うことである。
それは言葉の選び方という部分についてではなく、言葉の使い方という部分においてである。もう少し具体的に言えば、絵を描くように言葉を使う、という部分である。
私は、言葉にはそのままイメージに直結する言葉と、一旦理性で分解吟味してからイメージになるものとがあると考えるのだが、先に私が言ったものはそのままイメージに直結する言葉のほうである。
そして次に、接続語を可能な限り省く。何故なら理性を介入させないためである。だが一方で、理性を介入させる。それはあたかも、何を悩んでいるのか分からないものを解消しようとするジレンマのような方法で。
このあたりの説明は、私自身の分析がまだ不足しているので、十分にはできない。だが、この理論を構築していく過程で、それが明らかになることを信じて疑わない)
七月六日、月
目の前を伸び縮みしながら漂うナナの煙。極めて静かなエンジン音。快適過ぎる別空間。沈黙。ナナの煙。白手袋。
「空があんなに……綺麗で、不安で、怖い……ねえ、もう少しで今日が終わるわ……あと十秒……三秒……明日になった、ううん、今日になったの……今日から……今日になった」
「何も変わらない、少し分かるようになるだけだ」
遥かに続く浮遊した大地。バックミラーに写る、浮遊した大地。前にも、後ろにも。遥かに続く。
「唯則が好き、ただそれだけ」
俺はただの運転手なのに、か。金を貰って、奴を送って、煙草を吸って、酒を飲んで、女を抱いて、同じ手で子供を抱いて、そして眠る、ただそれだけなのに、か。
「でも……その左手にしてる手袋は嫌い。大嫌い。でも唯則が好き。どうすればいいの? 煙草を消したい。本当は好きじゃないの。でも本当は好きなの。だから消したいの。このスリップドレスだって、この帽子だって、唯則だって……」
「喋り過ぎだ」
「思ってること全部話す、って言ったでしょう?」
「と話そうと思ってる、と話そうと思ってる、と話そうと思ってる……本当はそんなところだ。不可能だ」
追い抜いて行く黒いポルシェ。ワーゲンではない。ポルシェだ。
「……ごめんね……ごめんね……」
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