『三年目の作家、として』
このような両者の効果の長所と短所とを知り、それを生かし、或いは補うべく、例えば短文ならば、文の数を増やしてテンポよく、感覚的に世界を形成していく、長文ならば文の数を減らしてゆったり、理性的に世界を形成していく、などの方法によって、効果を挙げたい。
最後に、未熟な私にとってこの節は余りに複雑で、まとまりを欠いてしまった事を反省し、お詫びし、無責任にも、将来の自分による解決を期待したい)
「ねえ、見て」
澄み切った夜空。遠く小さい日本丸。どこまでも暗く、不気味に深い海。波に揺らめく淡い月光。手摺に掛けられたナナの指。
「海が、揺れてる」
足下遥かに低く、黒い海がうごめいている。灰色の飛沫を浴び、堤防が波に濡れている。巨大な黒波が、緩やかに膨らみ、打ち付ける。
ザザー、ゴー、ゴー、ザー、ゴゴー、ザーッ。
うごめく。うごめく。打ち付ける。うごめく。
それは遠く水平線に続いている。海の黒。空の黒。岬の明かり。
「ねえ……私……飛び込んで、みたい」
ザーッ、ゴーッ。
「やってみればいい」
むせ返る潮の匂い。
「いいの?」
「やってみればいい」
ゴーゴ、ゴー。ナナが手摺に腕を掛けた。
「本当に、いいの?」
遥か下方でうごめく海。暗黒の、海。むせ返る潮の匂い。
「やってみればいい」
帽子が宙を舞った……ナナが飛んだ。
ナナが小さくなる。広げた両腕が小さくなる。飛び出した形のまま……ほとんどドレスがはためかない……そして……
あがった……小さな、飛沫が。小石が落ちたように、小さく……
「本、当、に、やり、やが、った……」
宙を舞う帽子が風に流れる。
「……本、当、に?」
帽子が彼方に小さく着水した。
「……いや、俺は、これが小説だということを知っている……だから、これは、嘘の、出来事、なんだ……」
小さく波に揺れる帽子。小さく浮かび来るナナ。
「……嘘?」
水の膜を破り、ナナの頭が飛び出した。
「……じゃあ、目の前に起きている、これは、何なんだ?」
髪を掻きあげる小さなナナ。
「これが……こんなにはっきり見えるこれが、本当じゃないって言うのか?」
小さくナナが俺を見上げている。小さく波に揉まれている。小さく月光に揉まれている。小さく潮騒に揉まれて……微かに、聞こえる……助けて……
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