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三年目の作家、として
 八月三日、月

「それで、何か身分を証明できるものは持っているかな?」
 取り調べが始まった。白髪の警官が、油紙に経緯を書き付ける。ナナは眠っている。俺の目の前に置かれた、変形して波打ったステンレスの灰皿から、煙が一筋伸びている。
「つまりはこういうことだね。私は恵比寿でお酒を飲んだ後、東急線で桜木町まで移動しました。そして深夜二時半頃、帰りの電車がなかったため、歩道に停めてあった自転車に乗りました。そうだね?」
「ええ」
 壁一面に降ろされたブラインドが、ヤニでくすんでいる。警官がさらに筆を動かす。
「それで……もうこんなことを繰り返す気はないんだろ?」
「……ええ」
「……以後、このようなことを繰り返さないよう……と……」
 俺は極めて従順だった。それは従順にしていれば罪が軽くなるという計算からではなかった。罪が重かろうと軽かろうと、そんなことはどうでもよかった。ただ、反論するには疲れ過ぎていた。
「これで間違いないか、確認して」と、警官は三枚の油紙を俺に手渡した。
 それに、従順にしていれば罪は軽くなると思いがちだが、実際は逆だ。警官は罰の根拠となる罪を信じる者にめっぽう強い。従順になることは、罪を信じることを自ら示していることだ。逆だ。
「問題ありません」
「じゃあ、次は、あっちで手続きするから」
 俺が立ち上がると、ナナが目を覚ました。
「どこに、行くの?」
 俺を見上げる寝ぼけた瞳。
「一緒に、行こう」
 窓のブラインドから、挑戦的な暴走音が近付いてきた。署のすぐ目の前らしかった。警官たちは気にも留めずにデスクワークを続けた。いつものことらしかった。
「じゃあこっちへ」
 ナナが立ち上がり、手を繋ぎ、隣の部屋に行く途中、一人の警官がブラインドに近付いた。暴走音は轟き続けていた。その警官はブラインドの隙間から外を見下ろして、歪んだ笑みを口に浮かべた。ナナが軽くつまずいた。
 だが、どう試みても、やつらが仲間だとは少しも思えなかった。
「それで、君の罪だけど、正式には占有離脱物横領罪という……」
 自転車をパクッた、だろう?
「まあ、微罪だから、そんなに気を落とさないように……」


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