『MICROMANCE』
1
私はいま、まっ赤なソファーで寝そべってる。革の感触がめちゃめちゃ気持ちいいの。気持ちいいから人差し指であいつの名前をなぞってみた。
「B・A・K・A」
ついでだから裸足の指を握ったり開いたりしてみた。やっぱり気持ちいい。
太陽の光がいっぱい差し込んでる。オレンジみたいな色した床が、少しまぶしいくらい。触ってみると、あったかい。カベもまっ白。
春の予感がうれしくて、ちっちゃなパキラが踊りだしそう。私もうれしいから足をバタつかせる。
私?私はね、二十六才の、めちゃめちゃキレイでかわいい女の子。ぜんしんスリムで、手足は長くって、ハダはツヤツヤ。髪はくるくるスパイラル。
名前?私の名前は
「GUUTARA!」
「ちがーう!」
「なんだよ、違うって?」
あいつがお風呂からさけんだ。顔だけ出して、私を呼んだ。
「まぁいいや。タオル取ってよ」
「やー」
「なんだよ、なに怒ってんだよ?」
「ちゃんとほんとの名前で呼んでくれたらとってあげる」
あいつのくちびるが動く。
「G・U・U・T・A・R・A」
「ちがうでしょー!」
「違わねえよ、ほんとにぐうたらじゃん」
「ウツクシイYASUKOちゃん、でしょ?」
「それこそ違うだろ……」あいつは水の滴る髪をかきあげた。「分かったよ!ウ、ツ、ク、シ、イ、YA、SU、KO、ちゃ、んー、タオル取ってく、だ、さーい」
私は青いローテーブルのうえのタバコに手をのばす。
「ごめんね、私、いそがしくてそれどころじゃないの。自分で、とってね」
「GUUTARA!」
あいつは裸のまま飛び出した。
薄っぺらだけど、筋肉質の体がキレイ。彫像みたい。長い髪から水をポタポタたらして、ちっちゃいお尻をふくらませたりへこませたりしてる……なんだかエロス。
あいつはタオルを手にとって、振り向いてまたさけんだ。
「GUUTARA!」
うるさいなあ。
あいつの名前はBAKA。一緒に住んでるバカなオス。いっつもバカなこと言って、バカなことして、バカなことで悩んで、怒って、落ち込んで……とにかくバカなの。ほかに言いかたがないくらい。
……ウソ。ほんとはある。
「私のいちばん大切な人」
窓からまっ青な空が見える。快晴。上空でのびる飛行機雲。となりの家の三角屋根。張り出した裸の枝。
私はタバコをくわえる。
「シュッ」
ライターからちっちゃな炎がのびる。青、黄色。炎がタバコの先にまとわりついて、消える。青空が、煙る。
あー、冷たいお茶が飲みたーい。
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