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MICROMANCE
 向こうに見える冷蔵庫。まっ白で、おっきくて、カドがまるくて、七十年代風の、とにかくかわいい冷蔵庫。中身も負けずに七十年代。氷を作ればシャーベットができるし、アイスだっていつも食べ頃。
 ときどき「ぶおおーん」ってだだをこねるけど、そういうときは私の出番。「どうしたの」って、やさしく頭をなでてあげると機嫌を少し直してくれる。あいつがすると逆効果。
「みにゃー」
 そうそう。もう一人私をねらってるオスがこの部屋には、いるの。
 彼の名前はAL(アル)。ライムみたいな緑色の目をした黒猫。長い尻尾をピンとのばしてゆっくりソファーのまえをウロウロしてる。緑のヒトミで見あげてる。
「お腹すいたのー?」
 起きあがって黄色いスリッパを履いた私の足に、ALが体をすり寄せる。あったかくて柔らかい、ALのお腹。
 パタパタと歩くスリッパの周りをぐるぐる回る。私の目をじっと見つめながら、ぐるぐるぐるぐる。
「みにゃー、みにゃー」
「いまあげるからー」
 冷蔵庫のブ厚いドアにミルクのビン。そのとなりには飲みかけの白ワインが立ってる。うえには卵、マーガリン、チーズ。棚にはハイネケン、ナットウ、昨日の残り。
 ミルクのビンをとり出した。やっぱりあんまり冷えてない。ビンの口から紙のフタをとろうとしたら、グチャッとつぶれてミルクがはねた。あー、小学校のころに使ってた針のついた栓抜きは、いったいどこに売ってるのー。
 指にはねたミルクをなめながら、ALの黄色いお皿に注いであげた。みるみる増えて、盛りあがる。揺れる揺れるまっ白なミルク。
 ALが四本の足を行儀よくたたんでピチャピチャなめる。まっ黒なヒゲに白いミルクの玉をいくつもくっつけて、しゃがんで眺める私を見あげて、首をかしげてまたなめる。
「ALー!」
 かわいいから抱きあげて顔をめちゃくちゃになでた。ALは目を閉じてされるままにしてる。
「どーしてそんなにかわいいのー?」
 ぎゅって抱きしめると、あいつの口笛が聞こえた。上半身裸のまま、肩にかけたバスタオルで髪を拭いてる。
「あー、いいお湯、で、し、た。ミルク、ミルク、冷たいミルク」
 そう言いながら、あいつが冷蔵庫をプシュッと開けた。すぐに、冷蔵庫のドアに隠れたあいつの深いため息が聞こえた。
「GUUTARA、いい加減、冷蔵庫買い替えようよー」
「ひどーい。こんなにかわいくて、こーんなにがんばってるのにー」
 あいつがドアからミルクを片手にあらわれた。
「それが、わが資本主義社会の定め、な、の、さ。あーあー弱肉強食の平和主義。我々は資本家の……」
 私はALの耳をふさいだ。
「AL、聞いちゃだめ!バカがうつっちゃう!」


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