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MICROMANCE
 あいつはミルクを飲みながらソファーに深く腰かけた。大きなのどぼとけが上下する。髪から水がしたたって、肩のバスタオルに消えてった。
「ピンポーン」
 チャイムがなった。
「お、GUU、誰か来たよ?」
「なぁに?GUUって」
「ピンポーン」
「GUUTARAのGUU」
「略さないでよ」
「ピピピピピンポーン」
「はーい」
「ピンポン、ピンポン、ピピピンポン」
「はーい、はーい」
「ピピピピピピピピピピピピ……」
「うるさーい!」
 玄関のまっ黒なドアを開くと、お母さんが買い物袋を片手に提げてチャイムをならしてた。
「あら、いたの?」
「あんなにならしといて、いたの、はないでしょー?」
 赤いビロードのスカート。水色のハーフコート。黄色いスカーフ。あい変わらずハデなんだから。
「あの子、いるの?」
「あの子って?」
「あの子よ、ほら……なんだっけ……あ、そうそう、聡くんよ」
「ああ、BAKAのこと?いるよー」
「あら……どうしようかしら」
 お母さんの目が泳いだ。人差し指がモモのところでくるくる回った。お母さんが考え事をするときのクセ。
「お母さん、いいかげん、あいつと仲直りしてよ」
「私もね、そう思ってはいるのよ?だけどね……」
 そのときあいつが奥から上半身裸のまま出てきた。
「誰なん、GUU?」
 あいつはお母さんと目があうなり、音になりそうなくらいにギョッとした。お母さんの顔がこわばった。
「あ、い、いらっしゃい、ま、せ」
 お母さんはじっと黙ってる。
「あ、ああ、そうだ!俺には、大事な用事が、あったんだ!」
 あいつは一人でうなずきながらひっ込んだ。背中がまるかった。
「やっぱり、あがらせてもらうわ」
 お母さんはそう言って手に持った荷物をおろした。買い物袋がガサガサなった。なかをのぞくとハッピーターンとルマンド、そのしたにケーキの箱が入ってる。
「わぁ、今日はどんなケーキ作ってきてくれたのー?」
 お母さんはかがんでパンプスを脱いでる。
「やっちゃんの好物の、グリーンアップルケーキよ」
「ねえ、開けてみていーい?」
「いいわよ。今日はね、この間よりもうまくできたのよ」
 箱を開けてみると、ちゃんとBAKAのぶんも入ってた。私とお母さんとあいつの三つとALのちっちゃい一つ。甘酸っぱい、いい香りがする。
「おいしそうー!私、紅茶いれるねー」
 キッチンに歩いたら、あいつがトレーナーの首のところに頭をつっかえさせて、もがいてた。手伝ってあげると、まだ湿ったままのあいつの髪からいい匂いがした。


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