LOGOS for web

MICROMANCE
 お母さんがそれを知ったのは、去年の夏に私が実家に帰って一週間くらい滞在してたときのこと。それまでも別に隠してたわけじゃないけど、二十才をこえていまさらタバコをはじめましたって言うのもなんだし、家族はだれも吸わないからなんとなく目のまえでは吸いづらかったの。
 それで、その夏の滞在のとき、私はタバコを吸わないでガマンしてたんだけど、三日もしたら、もーガマンができなくなって、だれもいないスキに蚊取線香の皿を灰皿代わりにして吸ったの。
 まさかこの年になってこそこそタバコを吸うことになるとはーって思ったけど、そのときの感動って言ったら。
「あー、おいしいー。セミもないてるよー」って。
 そのとき、突然お母さんが部屋に入ってきて、私を見るなりギョッとして「やっちゃん……」って言ったの。
 私は「あー、怒られるー」って思ったんだけど「あ、でももうハタチこえてるし」とも思って、どんな顔していいかわからなかった。お母さんもどう言っていいかわからないみたいで、口を開こうとして、モモをくるくるして、なにも言わずにまた口を閉じた。
 しばらく続いた沈黙に耐えられなくなって、とにかく私が謝ろうと思ったら、お母さんが「家は肺ガンの家系なんだから」って言った。
 私が「そうだったかなあー」って考えてたら、お母さんはまた口を開こうとして閉じた。
「ところでやっちゃん、仕事はどうなったの?」
 タバコの灰をトントン落とす。
「まだ、失業中なの」
 お母さんはまた、ため息をついた。
「ピンポーン」
「はーい」
 タバコを灰皿において玄関のドアを開くと、友達のKIDOくんが立ってた。いつもの青白い顔をもっと青白くさせて、髪もヒゲものび放題。黒いオーバーコートに古着のジーパン、白いスニーカー。手にはやっぱり買い物袋を提げてる。
「あ、こんにちはー。SATOさん、いますか?」
「いまちょっと出かけてるー。あ、でもあがってー」
「あ、おじゃましまーす」
 KIDOくんはそう言って玄関に腰をおろした。買い物袋からハイネケンの缶と梅酒のパックが透けて見える。KIDOくんは大のアルコール好きで、いつもお酒持参でやってくる。
「きょうも顔色わるいねー」
 スニーカーを脱いでるKIDOくんの背中。
「ははは、ちょっと、辛いことあったんで」
「そうなのー?」
「ははは」
 ALが奥から歩いてきた。私はALを抱きあげて、KIDOくんの顔に近づけた。
「ALー、だぁれー、この人?」
 KIDOくんはウラ声で「ALくん、こんにちは」と言った。
「KIDOくんだよ、覚えてるー?」
「みゃー」
 ちゃんと覚えてるみたい。KIDOくんの毛玉のついた靴下が青いスリッパを履いて、歩いた。


1-6へ
BBSに感想を書く
著者へメール
寄付
back



Warning: require() [function.require]: URL file-access is disabled in the server configuration in /virtual/logos/public_html/www.logos-web.net/hp/d/l/kid/m/05.html on line 115

Warning: require(http://pagead2.googlesyndication.com/pagead/show_ads.php) [function.require]: failed to open stream: no suitable wrapper could be found in /virtual/logos/public_html/www.logos-web.net/hp/d/l/kid/m/05.html on line 115

Fatal error: require() [function.require]: Failed opening required 'http://pagead2.googlesyndication.com/pagead/show_ads.php' (include_path='.:/usr/local/lib/php') in /virtual/logos/public_html/www.logos-web.net/hp/d/l/kid/m/05.html on line 115