『MICROMANCE』
「いまね、お母さんがきてるの」
KIDOくんは足をとめた。
「あ……帰りましょう、か?」
「ううん、いいよ」
お母さんとKIDOくんは初対面。部屋に入って紹介する。
「お母さん、友達のKIDOくん」
「あら、こんにちは」
お母さんはソファーに座ったまま微笑んだ。KIDOくんは頭をかいた。
「こんにちはー、KIDOです、はは」
そして、私とお母さんとKIDOくんの奇妙なお茶会がはじまった。
KIDOくんは「はは」と笑いながらお母さんのとなりに座ると、ローテーブルに広げられたお菓子を見て目を見開いた。
「ああっ!俺、ハッピーターン大好きなんです!」
ALは私のヒザによじ登り、今度はハッピーターンに手をのばした。
「こら、AL!こーれーわあーKIDOくんのー!」
「ははは、いいんですよー」
「よかったわ、こんなに喜んでもらえて」
お母さんは微笑んだ。KIDOくんは笑いながらハッピーターンをほおばった。ALはヒザのうえでもがいた。私はタバコをふかした。
「それで……やっちゃん、どうするつもりなの?」
「どうしようかなあ」
「何がです?」
KIDOくんは次のハッピーターンの包みを手にしながら目をパチクリさせた。
「あれ?KIDOくんには言ってなかったー?」
「ええ……多分」
私は灰皿にタバコの灰を落とした。オレンジ色の光がむき出しになった。
「あのね、私、このあいだデズールのバイト、やめたの。デズール、知ってる?」
「あ、はい。恵比寿にある飲み屋ですよね」
「そう。それでね、次のバイト先がまだ見つからなくって、いま、お母さんたちから仕送りしてもらってるの」
「仕送り?」
お母さんは飲んでた紅茶を静かにローテーブルにおいた。
「そうなのよ……なに君だっけ……」
「KIDOです、ははは」
「そうそう、木戸君。あなたからもなにか言ってあげて?」
KIDOくんはハッピーターンの包みをひっぱった。包みがKIDOくんの手のあいだでくるくる回って、ポロンと中身が転がり落ちた。KIDOくんはそれをつまみあげて食べると、こぼれたカスを指で集めた。
「YASUKOさんって、その前まで何やってたんでしたっけ?」
お母さんがKIDOくんを見ながらケーキを口に入れた。私はタバコを吸った。
「そのまえはー、美容師の専門学校を出て、すぐに美容院で働いてたんだけど、その美容院がイジメとか客のうばいあいとかあるところで、なーんかめんどくさくなっちゃってすぐやめちゃったの。それからずうっとデズール」
「んー……デズールはどうしてやめちゃったんですか?」
KIDOくんは集めたカスをパラパラ灰皿に払った。
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