『MICROMANCE』
「オーナーが変わっちゃったの。それでね、新しいオーナーって言うのが、もーめっちゃめちゃキビシイ人で、くるなり人のことを『なんだぁ、おまえのその接客の仕方わぁ!』って怒るから、あーもういいやー、って」
お母さんが口を手で隠しながらもぐもぐ言った。
「やっちゃん、それはね、どこで働いたって、同じ、なのよ?」
「うーん……」
お母さんは口のなかのものを飲み込んだ。
「ぅん。周りの人たちを見てみなさい。みんな嫌なことも我慢して一生懸命に働いているじゃない。あなただけよ、そんなにだらだらしているのは」
「こら!AL、ダーメ」
「ははは、いいんですよー」
「それにね……家には、いつまでもやっちゃんに仕送りできるようなお金は、ないのよ?」
お母さんが紅茶を口にした。
「どうしようー?」
「どうしますか?」
お母さんはカップをヒザのうえにおいた。
「だ、か、ら、お母さんたちは、もっとしっかりした人とお付き合いしなさい、って言っているのよ?」
私は煙をはき出した。
「私が好きなのはBAKAなのにー?」
「SATOさんなのに、ですか?」
KIDOくんはそう言うと、女の子みたいな手つきでお母さんと私のカップに紅茶をつぎたした。お母さんは「ありがとう」って微笑んだ。
ALは私の手のなかでじっとハッピーターンをねらってる。お母さんはズズズッて音を立てて紅茶を飲んでる。KIDOくんは手持ちぶさたなのか、もじもじしてる。私はいいことを思いついた。
「ねえKIDOくん、社会主義国に逃げるってのはどうかなー!」
「いいですねー」
「なに言っているの。あなたみたいなぐうたらの面倒を見てくれる国なんてないわよ」
KIDOくんがめちゃめちゃいきいきした顔で続ける。
「じゃあYASUKOさん、資源国に亡命ってのはどうですー?」
「いいねー」
「はぁー……なに君だっけ……あ、そうそう、木戸君まで、そんなこと言って……」
ソファーのとなりで山積みになったレコード。いちばんうえはアレサのジャケット。私は短くなったタバコをもみ消した。灰皿から煙がのびて、ALはくしゃっと顔をしかめた。かわいいなー。
「聡くんがもっとしっかりしていればねぇ」
お母さんはあいだをあけて三つため息をついた。
あいつはいま、フリーター。でも、遊んでるわけじゃないの。ミュージシャン目指してがんばってる。
ちっちゃいころからブラックミュージックが好きで、自分で作曲してライブをしたりレコード会社に持ち込んだりしてる。でも、まだまだ遠いみたい。
お父さんとお母さんはそれが気に入らないみたいで、このあいだ、私とあいつで実家に行ったときにケンカになったの。
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