『MICROMANCE』
「あのさ……もし、もしだよ、脳とか遺伝子とか人間の構造が科学的にどんどん解明されてってさ、例えば『人間は食と生殖のために生きるのである』とかって結論が出たとしてさ、それを基にして人間を教育したり法律を制定したり、そんなことになったらどう思う?」
「人間が生きる目的の発見、みたいなものですよね……抗いたいような、従いたいような……わけ分かんないです」
あいつが灰皿に灰を落とす。
「GUUはどうなの?」
「うーん……言ってること、よくわからないけど……」
「けど、なに?」
私はフォークをかみながら思い出す。
「いまの話にぜんぜん関係ないかもしれないけど……私が新潟のおばあちゃんに『幸せになるにはどうしたらいいのー?』って聞いたら『やっちゃんは幸せになりたいの?それだったらいっぱい笑いなさい』って言われたことを思い出したの」
「いっぱい笑え、ねえ……そう言えばさ、幸福の対義語ってなにかなあ?不幸は対義語って言うよりも幸福以外のものを指す言葉だろ?そうじゃなくて対極を表す言葉……いや、それよりも、幸福には三つの段階があって、無、定義、獲得、その意味枠が……」
またはじまった。KIDOくんはペンネをほおばったままワインを飲んだ。
「おばあさんって、どんな人なんですか?」
「おばあちゃん?おばあちゃんはねー、もー、めっちゃめちゃかわいい人なの。サイって名前で、いま……八十六、かなあ。ちっちゃくって、いーっつも笑ってて、遊びに行くと『やぁーっちゃん、ほーれ、こんげおっきょなってぇー。まーずながまらしぇー』って言うの」
あいつが首をかしげた。
「それ、どういう意味?」
「うーんと……『やっちゃん、大きくなったね。とりあえずくつろぎなさい』って意味」
「ながまらしぇー、が、くつろぎなさい、なんですか?」
「うん。ながまる、って横に長くなる、寝転ぶって意味なの。そう言えば、去年はおばあちゃんちに行かなかったなあー」
ALが顔をくしゃくしゃにしてあくびをした。
「よく行くんですか?」
「うん。私、小学校三年生までおじいちゃんとおばあちゃんと一緒に住んでたの。おじいちゃんはもう死んじゃったけど。……それでね、おばあちゃんちのまわりには田んぼがずぅーっと広がってて、ちっちゃいころはよくおじいちゃんとドジョウとかザリガニとかとって遊んでたの。だからかなあ。私ね、山とか海にいるよりも田んぼのあぜ道にいるほうが落ち着くの」
「YASUKOさんって新潟出身なんですかー。へえー」
あいつがタバコをもみ消した。
「GUU、あの話もしてあげれば?」
「あの話?あー、あれね」
私はタバコに火をつけた。KIDOくんは目をパチクリさせた。
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