『MICROMANCE』
「あのね、おばあちゃんちは農家なんだけど、農業だけじゃなくて養鶏もやってるの。それでね、卵を産まなくなったニワトリを肉にするじゃない、そういうニワトリのお腹には卵の黄身みたいなのがふさになって入ってて、それをとり出して水炊きにして食べると、もうめっちゃめちゃおいしいの。いま考えると気持ち悪いけど、私、黄身が大好きだったから、おじいちゃんと一緒によくニワトリを殺してた」
「ねー、KIDOくん。GUUには気をつけたほうがいいよ」
「ははは」
タバコの灰を落とすと、オレンジ色の光があらわれて、ゆっくりもぐった。
「でも、そのときはかわいそうだとか残酷だなんて思わなかったなあー。ただあのふさになった黄身が食べたくて、いっしょうけんめい殺して、羽をむしって……でも、肉は嫌いなの。鳥だけじゃなくてぜんぶ」
ALが後ろ足であごのところをかいてる。
「好き嫌いとか、激しいほうなんですか?」
「いまはそうでもないけど、ちっちゃいころはすーごかった。放課後まで給食が机にのってる子だったから。でもね、私、保健室の先生が大好きで、よくお昼休みとかに遊びに行ってたんだけど、その先生に『食が片寄ると性格も片寄るよ』って言われたのがめちゃめちゃショックで、それから、いじでも給食を残さないことにしたの」
いつのまにか冷蔵庫が静かになってる。
「俺、スイカがだめです。何て言うか、あの赤いところに黒い種がツブツブーってなってるのを見ただけで寒気がして」
「俺は……別にないなー」
ALがあいつのヒザでまるくなって眠ってる。手をのばしてALの足をひっぱってみた。かわいいなー。熟睡してる。私は煙をはき出した。部屋がもくもく煙ってる。霧のロンドン。
部屋を満たした青白い煙をローソクの炎がのび縮みしながら揺らしてる。空になったワインボトルをすてに行ったKIDOくんは、帰りにハイネケンと梅酒を手にしてた。
ごちゃごちゃしたローテーブル。サラダもペンネもほとんどなくなってる。もう十一時。早いなあー。起きてからもう九時間。
「SATOさん、最近音楽のほうはどうですか?」
あいつは窓を少し開けて換気した。
「よくないねー。ドラムのやつがぜんぜんやる気なくてさー。あいつ、クビだよ、ほんっとに」
「一人でやることじゃないぶん、大変ですよね」
「まぁそのぶん、うまくいったときの気持ち良さは大きと思うけどね。でもあいつはクビ」
あいつはハイネケンを口にした。
「その人、かわいそう」
「かわいそうなんかじゃないよ。俺たちが一生懸命練習して、曲作って、さあライブ前最後のスタジオだって日に、あいつなんて言ったと思う?ゲンチャで酔っぱらい運転してコケて骨折した、って言ったんだぞ?考えられるか?なんでこんな大事なときにそんなことしてんだ?」
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