『MICROMANCE』
「でも、売れなかったらバイトしなくちゃいけないんでしょー?だったら、そーゆー曲でも少しは練習になるんだからー、作ったほうがいいんじゃなーい?」
「確かにさ、そういうふうに使い分けてもいいとは思うよ。でも俺にはそれが割り切れないっていうかさ、なんか、自分の好きなことを冒涜してるような気がして嫌なんだよなー」
食べかけのチーズ。あいつの歯形。
「ふうーん、難しいんだねー。私なんか、なあーんにも考えてないのに」
「うーん……でもさ、意気込みで作品が評価されるわけじゃないし、されちゃいけないんだよ。意気込みだけじゃない。作者が誰だとか、その作品の作られた背景がどうだとか、そんなのは作品の評価にはぜんぜん関係しないことなんだよ」
ドレッシングまみれのサニーレタス。トマトのソースにもぐったフォークの頭。私は足をバタつかせる。
「……なーんか、めんどくさくなっちゃった」
「あ……いや、そう言われると困るん、で、す、け、ど」
ALがゆっくり目を開けて、まばたきして、立ちあがって、のびをした。
「まぁ、ほら、GUUはALのかわいさとか表現したいんだろうから、その……やっぱりそこにも必要性があって……だから、そのー、やるだけやってみたら?もしかしたらすごいのが出来るかもしれないし。ビギナーズラックってのが……」
ALがあいつのヒザからおりて、こんどはKIDOくんのいた場所でまるくなった。ゆっくり、目を閉じた。
「KIDOくん、遅いねー」
「もしもし?聞いてる?」
私はタバコに火をつけた。ローテーブルに並ぶ三つのグラスと二本の缶。梅酒の入ったグラスに浮かぶ、とけて小さくなった氷。ビールの入ったKIDOくんのグラスの底からは、細かい泡の隊列が消えてしまいそうにのぼってる。
「そう言えばKIDOくん、辛いことあったって言ってた」
あいつが黙り込んだ。時計が一時を回ってる。私のタバコの先から流れる青白い煙があますことなく滞る。ローソクがALの寝顔を揺らしてる。あいつはハイネケンの缶を一気に口に傾けて立ちあがった。
「ちょっと、見てくるわ」
ローテーブルを回って歩く、きゃしゃな巨人。煙に頭をつっ込んだ。ALは眠そうに目を開いて、また閉じた。
巨人の長い影が私の体を通り過ぎる。スリッパの足音がとまり、ドアの開く音がする。タバコの灰を落とそうとして、吸い殻があふれそうになってるのに気がついた。
片手でタバコを吸いながら灰皿をキッチンに持って行くと、玄関のドアの向こうからあいつの声がかすかに聞こえてきた。
「……なにやってんだよ!……いいから、とにかくやめろ!……」
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