『MICROMANCE』
気持ちいいなー。空気に色がついてるみたいに青い空。手をのばしたら染まりそう。イチョウの並木にびっしり開いたちっちゃな葉っぱが、さわやかな風にザワザワ揺れてる。太陽の光をいっぱいあびてまぶしいくらいに黄緑色に光ってる。
向こうに行列ができてる。チョコレート色のアパートの一階。クリーニング屋さん。そのうえの階のモスグリーンのベランダでは洗濯物がはためいてる。行列を通り過ぎるとき、おじさんが忙しそうに受け付けしてるのが見えた。
このおじさんはいつもは怖い顔してるけど、話しかけるとめちゃめちゃかわいい顔でニコニコ笑う。人と話すのが苦手で、必要以上にニコニコして疲れちゃうから、反動で普段怖い顔になっちゃうんだよってあいつが言ってた。
あいつと手をつないで山手通りを歩く。まっ青な空が遠くまで広い。楽しいなー。あいつも笑ってる。
「もうそろそろ桜が咲くんじゃないかなー」
「お花見しようねー」
駒沢通りとの交差点。自動販売機。横断歩道を左に曲がる。私の苦手な立体交差の橋が迫る。どんどん迫る。どんどん、どんどん。もうダメだー。私はあいつの手にしっかりつかまる。
「ん?ああ、GUUは橋がだめなんだっけ」
「ほんっっと、ダメ。私のとこだけヒューって落ちそうで」
「それって、体重が……いや……」
駒沢通りのカーブにそってゆるやかな坂をのぼりきると、ガゼボが見えた。アウトレットを恵比寿の方に越えて二十メートルくらいのところ。
ガゼボはオープンテラスのカフェ。まっ白なカベ、クリーム色のタイルの床。まるいテーブルとイスが店じゅうに並べられてる。
「込んでるなー」
短い行列のできたカウンターの向こうで、アフロの男の子がヒジをつきながらオーダーをとってる。グリーンのTシャツにデニムのエプロン。
「なんにする?」
あいつはメニューをとって見せてくれた。
「私は、ツナサンドと……ココア」
「じゃあ俺頼んどくから、GUUは先に席取っててよ」
見ると、入口近くのテーブルがあいてた。涼しそうな席。
「わかったー」
後ろに並ぶ女の子たちのすきまを通ってテーブルにつく。イスを引いたらガタガタなった。バッグからタバコをとり出して一息つく。テーブルにはシュガーポットとプラスチックの灰皿がおいてある。タバコの灰を落とそうとすると、となりのテーブルからアツイ視線を感じた。
これって!もしかして、私、モテモテ?きゃー!めちゃめちゃカッコいい人だったらどうしよう!
カッコよくタバコの煙をはき出しながらチラっと見たら、小学校一年生くらいの、わんぱくそうな男の子がフォークをくわえながら私をじいっと見てた。
なあーんだ。ガッカリ。
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