『MICROMANCE』
私は泣きじゃくるジュンくんの手をひっぱってどんどん歩いてった。どんどんどんどん。泣いてしゃがみ込むジュンくんを立ちあがらせて、どんどんどんどん。
さんざん歩いてなんとか鉄塔にたどり着いたら、見たことのある人たちが私とジュンくんの名前を呼んでた。部落の人たちが総出で私たちを探してたの。私たちは一気に泣き声をあげてその人たちに走ってった。
その後、私はめちゃめちゃ怒られて、おばあちゃんと一緒にジュンくんのうちに謝りに行ったの。「ごめんくださーい」って言うと、おばさんが出てきて……
私が「ごめんなさい」ってペコリとしたとき、おばさんの陰からジュンくんがした顔、それがこの最上級の憎たらしい顔だった。
あいつがオーダーを終えて帰ってきた。イスに座るなり、体をひねってジーパンのポケットからタバコをとり出した。私は指にはさんだままの自分のタバコに気がついた。灰がゾウの鼻みたいだった。
「いくらだったー?」
「ん?ああ、いいよ」
「だーめ。いくらだったのー?」
私は財布からお金をとり出して、あいつに手わたした。
「ねえ、ママ!ジャニスにもあげていーい?」
あの男の子が大声で、すぐとなりにいるお母さんにさけんだ。ジャニスはたぶん犬の名前。お母さんは自分の料理を食べながら、冷静に答えた。
「ダメだよ。ジャニスは辛いもの食べられないんだから」
男の子はまだあきらめない。
「ねえ、なんでー!なーんーでー!」
「じゃあ、あんたもニンジン食べるの?」
男の子はすぐに話題を変えて、ジュースの入った大きなグラスにちっちゃな手をのばした。顔は憎たらしいけど、手はかわいい。
「あのね、きのう学校でね……」
ほんっと、よくしゃべるなあー。
私もあの男の子くらいのときはめちゃめちゃおしゃべりで、お母さんに「あんたは口から産まれたみたいな子だねえ」って言われてた。でも、そのころの私ってなにを話してたんだろう。いまでは思いつくことをぜんぶしゃべってもあの子ほどしゃべれないのに。どこに行っちゃったんだろう。どこからきてたんだろう。
あ、でも、そう言えば……
店員さんがやってきて、テーブルに並べはじめた。私のツナサンドとココア。あいつは……ローストビーフサンドとポテト、コーヒー。
「ねえBAKA、最近、書いてて思うんだけど……言葉ってどこからやってくるのかなあ?」
あいつはサンドを口いっぱいにほおばりながら視線を私に向けて、戻した。
「ううん、私から出てくるのはわかってるの。でもね、どんどんどんどん目のまえに文字があらわれるのを見てると、だんだん怖くなってきて」
あいつは口をいっぱいにしたままモグモグ答えた。
「徒、然、草?」
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