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MICROMANCE
 水色のTシャツにジーパン。アップにした茶色い髪を揺らしながら、AKIさんの後ろ姿が走ってく。
「ほんっと、よく喋るなあー」
「でもねー、AKIさん、いま思春期なんだよー」
 私たちはお店に入った。
「どういうこと?」
「MANABUさんとシュラバ中なんだってー」
「修羅場って、どんな?」
「夜毎、カサのトガったほうを相手に向けてたたかってるらしいよー」
「ふうーん。日本にも、しかもこんな身近なところにも、眠れない場所ってあったんだねえー」
 そう言いながら、あいつはマグカップを手にとった。
「うちも、ALのおかげで大変だよ」
 このあいだ、ALがいたずらしてマグカップを三つも割った。だれかが遊びにきたら足りないから、買わなくちゃいけない。
「楽しんでるくせにー」
「そんなこと、あるよー」
 あいつが手にしたのはイタリア製のシンプルなマグカップ。外は山吹色、中は白。口のところはモスグリーン。
 私が手にしたのはフランス製のシェイプしたマグカップ。外も中も赤。口のところが青。とっ手に二つ、穴が開いてる。
 あいつは私のマグカップを、私はあいつのを見る。見比べて、目をあわせて、見比べる。あいつは自分のマグカップのほうがかわいいって目で訴えてる。
「なあにー、言いたいことがあるならちゃんと口で言いなさい?」
 あいつは口をとがらせて、まだ目で訴える。私はわからない振りをしてあげる。
「なんなの?言葉はどうしたの?なくしちゃったの?」
 あいつは大きく二回うなずいた。私はわざと大きなため息をついてあげる。
「なくしちゃったんならしかたないわね。私のに決まり」
 あいつは大きく二回首を横に振った。
「悪いひと。言葉を話せない振りしてたのね」
 あいつは一段と口をとがらせて、首をまた横に振った。
「私には聞こえるのよ、あなたの声が、そのしぐさから」
「……マリアンヌ、君は僕を知っていると言い、すぐさま知らないと言う。君は僕に触れながら、遥か彼方にいると言う」
「いいえフェルディナン。あなたの目からは言葉が聞こえなかった、ただそれだけだわ」
「ああ。言葉、いや、表現は発信と受信の両者が互いにイメージに働きかけなければ成立しないものだ。僕たちを分け隔てているものは、なんだ?」
「きっと……愛、よ」
「愛が二人を結びつけ、そして隔てている……」
「そう。空の青と私とのあいだには『空の青』があるわ。だから、もう、行かなくちゃ」
「あ、あ、あ、ちょ、ちょっと」
 あいつは手をのばして私をとめた。
「なあに?」
「あ……結局、GUUのマグカップに……すんの?」
 私ははっきりうなずいた。


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