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MICROMANCE
「GUU、これー、結構重いよー」
 あいつは荷物を逆の手に持ちかえた。
「帰るー?」
「う、うん。そうしてしまおう」
 私の頭にサンダルがよぎった。でも、しかたないかあー……ん?あー!
「ねえ見てー!」
 道路をはさんで向こう側のお店のウインドウに、カッコいいロングドレスが飾られてる。
 ワインレッドで、ソデがなくて、胸が深く開いてて、長いスリットが入ってて、シルエットがめちゃめちゃカッコいい。
「ちょっと見ていいー?」
「たぶん、むちゃくちゃ高いよー?」
「いーいーかーらー」
 道路をわたって近くで見ると、大きな花柄が薄く入ってる。私がこのドレスを着てる姿を想像してみた。きゃー。カッコいいー。
「やっぱり、高いねえー」
「決めた。私、ノーベル文学賞の授賞式はこれを着てあいさつする。だから、それまでだれにも買われないで待っててねー」
「それまでって、いつだ?」
 あいつは両手で荷物を持ってまぶしそうにしてる。
「夏、かなあー」
「……夏、ねえー」
 坂をくだる私たちの先に、足長な私たちの影が歩いてる。両手を広げてみる。翼に羽のない鳥になった。あいつも荷物を持ったまま翼を広げる。オモリを縛りつけられた翼。
 ふらふら左右に走る。二羽の飛べない鳥の助走。羽のない身重な鳥。スピードがあがる。金色の歩道。まっ黒な影。
「ねえ!言葉って、なんなのー!」
「もやもやを閉じ込めた、鍵付きの宝箱!」
 カーブの終わりで息をきらす。あきらめる。
「音楽も?写真も?絵も?映画も?服も?化粧も?料理も?ケーキも?」
「そう。みんな、そう」
 遠回りしてビルの谷間を歩いてく。日陰のツタの細道。放置されてサビついた自転車の陰から汚れたノラ猫が私を見てた。枯葉色のこのカベにも、少しずつ緑が戻ってきてる。耐えられなくなってしゃがみこむと、頭上に青とも黒とも言えない細い空が見えた。
 あいつは言った。
「人は生かされ、生きさせられているんだ」
 私はノラ猫を見つめながら、今夜のことを考える。
 ソウルミュージックに包まれながら、あいつとALと三人で、ゆっくり話して、ゆっくり黙って、ゆっくり見つめあったら、ゆっくり抱きあって、ゆっくりキスして、ゆっくり眠る。
 だって、それが「休日」でしょ?


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