『MICROMANCE』
私は部屋の入口で腰に手をあてて立った。ドス黒いオーラをまわりに漂わせながらタバコをふかすあいつを眺めてたら、ため息が出た。
「はあー、どうしたものかー。その気持ちは、しつこい大臣の君にしかわからないよー」
それでもあいつは黙ったまま。もう、ほんとにしつこいんだから。
あいつのしつこさはケンカのときだけじゃない。去年、ブーツィーのライブに行ったときだってそう。
あいつは帰ってくるなり目をうるませて、ライブの感動を情緒たっぷりに語りはじめた。遅い夕食を食べながら、お風呂からあがって続きを話し、ベッドのなかでも語ってた。私は眠気に襲われながら、くり返されるあいつの話題にうなされてるみたいにウンウンうなずいてあげた。
二ヵ月後、そのライブのビデオが出た。あいつはバイトを休んで買ってきて、何度も何度も見続けた。くり返される巻き戻し音。
私が「寝るよー」って電気を消しても「もう一回」。あいつはまっ暗な部屋でテカテカテレビを光らせて黙ってじいっと見入ってた。
次の日も、またその次の日も、あいつはバイトに行って帰ってくると、お菓子を片手にくり返す。私が「まだ飽きないのー?」って聞いても「もう一回」って答えるだけ。
その生活を二週間も続けたあいつの頭のなかがどうなっていたのか、私には到底わからない。
もしかしたら虹のスパイラルがまっ黒な宇宙で絡まりながら渦巻いてたのかもしれないし、四つの太陽がのぼったり沈んだりしてたのかもしれない。
それは外から見ててもわからない。いまだってそう。あいつの頭のなかがどうなってるのか、私にはちっともわからない。
だから、そんなときは抱きついてみるの。
手をつないだり、しがみついたり、キスしてみたり。そうすると、私の体にあいつの形が伝わってくる。あいつのカタさが伝わってくる。あいつの温かさが伝わってくる。あいつの気持ちが伝わってくる。私もあいつに伝わって、やっと二人はわかりあう。
それなのに、あいつは抱きつくことを禁止して、私はもうお手上げダー。
電話がなった。あいつはやっぱり黙ってる。私はため息をついて受話器をとった。お母さんだった。
「はい」
「あ、やっちゃん?お母さんよ」
「うん」
あいつがタバコをもみ消した。
「どうしたの?元気がないわね」
「うん、ちょっと」
「ちょっと、なんなの?」
ALがあいつのヒザに跳びのった。
「うん……あのね……いま、BAKAとケンカちゅうなの」
「あら……もしかして、邪魔しちゃった?」
「ううん、いいの。それよりどうしたの?こんな遅くに」
「え?あ、そうそう」
パキラの新芽にちっちゃな葉っぱが開きかかってる。かわいいなー。ちゃんと五枚。
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