『MICROMANCE』
「あのね、庭の桜が満開で、もう、本当に奇麗なのよ。白い花が枝いっぱいに開花してね、そうね、まるで大粒のぼたん雪が空に留まっているみたいなの。それでね、真下から見上げると、桜の花びらに透き通った微妙な光が真っ青な空と一緒にお母さんの額で揺れるの。お母さん、洗濯物を干してる最中だったけど、思わず木の下で佇んで、いつの間にかレジャーシートを敷いてお昼寝しちゃってたわよ」
「いいなあー、私もお昼寝したーい」
振り返ると、ALがあいつのヒザで眠ってた。
「あら、明日家に来ればいいじゃない、聡君も連れて」
「だって、あいつ、口もきいてくれないんだよー?」
「またやっちゃんが駄々をこねたんでしょう?」
「ちがうよー。私なんにも悪くないもん」
あいつはテレビのリモコンを手にとって、チャンネルを変えようとして、やめた。
「喧嘩って言うのはねえ、どちらか一方だけが悪いことなんてないのよ。お互いに我を突き付け合うから起きるものなの。特に好きなもの同士は喧嘩になりやすいものよ。それはね、怒りというものが焦りから始まるからなの。分かる?自分に都合のいいように立てた予定が、狂うことから始まるのよ。聡君のことが好きなんでしょう?だったらもっと優しくしてあげなさい?」
「やさしくしてるよー。どうしてお母さん、BAKAに味方するのー?」
「味方なんてしていないわよ。ただね、やっちゃんが後で後悔しないように……」
あいつがリモコンを私の黄色いワープロにおいた。
「あ……そうだ、お母さん」
「なあに?」
「私ね、フフフ、ついに小説書きはじめたのー!」
「……」
「それでね、いま……百ページくらいかなあ、BAKAもALもKIDOくんもAKIさんも、そしてなあーんと、お母さんも出てくるんだよー」
「……」
「そーれーでー、六月には完成させてー、新人賞に、応募するの!すごいでしょー?」
「……」
「……ん?どうしたの?あー、ひょっとしてお母さんいま、モモのところくるくるなぞってるでしょー?」
お母さんは電話の向こうで長い長いため息をついた。
「はあーーーーー。やっぱり、あれは、本気、だったの、ね」
「うん」
私は冷蔵庫をあけてミルクをとり出した。
「はあー……やっちゃん、あなた本を読んだことあるの?お母さん、あなたがオムツしてるころから見てるけど、本を読んでいる姿を一回も見たことがないわよ?」
「だ、い、じょーぶ」
ミルクを一口飲んだ。結構冷えてる。がんばったねーって冷蔵庫をなでてあげる。
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