『MICROMANCE』
「大丈夫って、あなた……小説ってなんだか分かっているの?小学生の作文じゃないのよ?まあ、あなたは言い出したら聞かない子だからなにを言っても無駄なんだろうけど、もう二十六にもなるんだから、少しは考えて行動しなさい?」
「んー……」
「それじゃあもう遅いから切るわね?早く聡くんと仲直りしなさい?いーい?それじゃあね」
ガチャン、プーッ、プーッ……切れた。
「しなさい」の連続。なんだか子供に戻ったみたいな嫌な気分。でも「二十六」って数字がお母さんの言葉に説得力を持たせるのだー。
あーあー。私はミルクを冷蔵庫に戻した。
小学生の作文じゃない、かー。きっと私の小説のことを言ってるんだろうなあー。
でも、中学生の作文だったら小説なのかなあ?それとも高校生、大学生、専門学校生?じつは、もっと年上の、七十、八十の人の作文のことだったりして。イジワルな私。
でも……ねえ、小説ってなんなの?私が書いてるのは小説じゃないの?どうなの?ねえ……なんて、あなたに聞いてもダメだよね。だって未来のあなただから。
他に教えてくれそうな人って……あぁぁー。あいつだけだー。
あいつはあい変わらずソファーに座って、黙ってテレビを見つめてる。ヒザではALがまるくなって眠ってる。ローテーブルにおかれた灰皿から、細い煙が立ちのぼってる
ALが寝返りをうってあいつのヒザから落ちそうになった。あいつはそれを押さえて引き寄せると、灰皿のタバコに手をのばした。見つめる私と目があった。
あ……いまだー!
「あー、あのー……BAKAさん、ちょっとお聞きしたいことがあるんですけどー」
あいつは目をそらした。でもまだ聞いてるみたい。
「小説って……ううん、芸術ってなんなのか、教えてください。一生……今年最大のおねがい。ねえー。教えてくれたら、また黙ってもいいからー」
あいつはタバコをふかして黙ってる。こうなったら奥の手だー。
「愛と仕事のためには出し惜しみ、しないんでしょー?」
「……だよ」
つぶやくようなあいつの声。しばらくしてなかった話すという動作を思い出しながら、探りながら、おそるおそる話したみたいな細い声。もちろん私は聞きのがしてた。
「BAKAせんせい、もう一度おねがいします」
あいつはタバコを灰皿において、自分のバッグに手をつっ込んだ。
「せ、か、い。それ自身の時間と空間とを持つもの」
あいつはごそごそバッグからブ厚い本をとり出すと、パラパラめくって、とめた。
「どちらか一方しか持たないものは実用だ。芸術は自ら運動し、かつ広がりをも持たなければならない。その際、時間がゼロでも無限大でもない速度に留まるよう、細心の注意を払う必要がある。なぜなら速すぎる速度は空間を失うからだ」
「……」
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