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MICROMANCE
「写真芸術においては対象に構図的静止を要求すべきではなく、むしろ自然運動の切片でなければならない。文物芸術においても同じことが言える。情報は時間を持たず、論は空間を持たない。つまりそれは完全なる客観でも完全なる主観でもなく、主観中の客観、客観中の主観であり、矛盾した両者の統合である」
「……」
「見ろ。受け手に時間感受能力を要求する写真、絵画を。空間感受能力を要求する古典音楽を。両者を要求する小説を、より強く詩を。受け手と同じ時空で行われ、それ自身の時空に飛び立つことの困難な演劇を。それらは折衷された現代音楽に押され、より映画に押されて風前の灯だ」
「……」
「しかし芸術家よ!人は三次元に留まったままだ。芸術はさらに上位次元、つまり四次元世界へと到達しなければならない。それは果てのない空であり、底のない地であり、精神の形容を越えた形態である。無限の有であり、同時に無である時空。そこにこそ、最上の芸術があるのだ」
「……」
 あいつは本を閉じて、となりにおいた。
「さっき、古本屋で買った」
「……だから、遅くなったの?」
 あいつは灰皿においたタバコに手をのばしながら首を横に振った。
「まだ、怒ってるの?」
 あいつはまた首を横に振った。
「じゃあどうしてまた黙るの?」
 あいつはタバコをくわえて灰皿に目を落とすと、そのまま動かなくなった。タバコの先からのびる煙が、あいつの髪の表面を流れてのぼってく。
「……あのさ」
 ALのお腹がゆっくり動いてる。
「ドラムのやつ、クビにするとか、言ってただろ」
「うん」
「それが……代わりやることになってたやつが、急に『できない』って言いだしてさ」
「うん」
 あいつはタバコを光らせた。煙を吸い込むオレンジ色の光。光が消えて、煙がのぼる。あいつの口からあふれ出す。
「それで、他のドラム、探してんだけど、なかなかああいうドラム叩けるやつって、少なくてさ」
「うん」
 あいつは灰を落とした。
「今更、前のドラムのやつに『やっぱりやってくれ』とも言えないし」
「うん」
 灰を落としたタバコをじっと見つめて、また、くわえる。
「それで、さっきまでホーンのやつと話してて」
「うん」
 あいつはため息みたいに煙をはいた。
「このままだと、自然解散みたいになるかもしれない」
 はいた煙はふくらんで、薄まって、漂った。
「……ドラムなしじゃ、ダメなの?」
 あいつはむせた。
「ゴホゴホッ……だーめだよー」
 ちょっと笑った。やっと、笑った。


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