『MICROMANCE』
「ねえMIKAちゃん、昨日もお店番してたー?」
MIKAちゃんは煙をはいた。
「うん。まいにちまいにち朝から夜までお店番。どんなにヒマでもお店番。このあいだなんかだーれもお客が来なくて、いちにちぼおーっとしてたんだよー」
MIKAちゃんとMONKEYは、荻窪で自分たちのお店を開いてる。名前は「Ye−Ye」。家具とかレコードとか本とか生活雑貨とか、いろいろ売ってる楽しいところ 。
「ねえBAKA、こんどKIDOくんも連れてYe−Yeに遊びに行こうよー」
「……だってー、KIDOくーん」
KIDOくんがハッと顔をあげて、また思いきりニコッとした。
「行きます!」
「……だってー、GUU」
あいつはそう言ってビールを飲み干した。MIKAちゃんはKIDOくんをボーゼンと見てた。
「突然ニッとあらわれるあの笑顔、夜、夢に出てきそうだよ」
KIDOくんはさらにニコッとした。向こうからMANABUさんとMONKEYの笑い声がした。私はタバコに火をつけた。
あんなに公園をうずめてた家族連れもだいぶ減って、いまでは……七組。そのうちの一組が帰りじたくをはじめてる。目のまえにたれさがった桜の枝をざわざわ揺らして、たくさんのハトが舞い降りてきた。後ろを振り返ると、ガーデンプレースの赤茶色のビルがそびえ立ってる。
「あ、そうそう」
MIKAちゃんはバッグからなにかとり出した。
「これ、またいっぱい作ったからあげるー。YAっちゃんにはー、特別にー、スペシャルバージョンー」
そう言って、もらった「Ye−Ye」のチラシには、MIKAちゃんの手書きで「よろしく」って書いてあった。
「ありがとうー」
「こんどのはトイレになんか飾らないで、もーっと宣伝になるようなとこに貼ってよー?」
「わかったー」
MIKAちゃんは立ちあがってみんなにチラシを配りに行った。ハトが飛び立った。背中で電車の音がした。あいつはタバコをとり出して火をつけた。
「そう言えばKIDOくん、写真のアシスタント、どうなった?」
振り返ったKIDOくんは、完全に酔っぱらったときの顔になってた。
「けっきょく、やめました」
KIDOくんはそう言ってタバコをくわえると、ポケットにライターを探した。あいつがそれを見て自分の火をさし出すと「あ、すみません」と背中をまるくしてオレンジ色を吸い込んだ。煙をはいた。MIKAちゃんがMONKEYのとなりに座った。
「それで……俺、しばらく撮るのをやめてたんです。やっぱり自分に写真は向いてない、とか、実は芸術とは不自由のことだ、とか、いろいろ言い訳しながら……でも、そのうち撮らずにはいられなくなって……」
私は煙をはいた。
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