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完結した夏
「ハーッハッハッハー!ぃやぁーはっはっはぁぁ!」
 叔父の口から泡立った唾液が糸を引いて垂れ落ち、叔父の股間が一気に染みて、タンパク臭い小水が足から床に広がった。
「あんた!」叔母が奥から駆けて来て「しっかりして!」狂い笑う叔父を揺すった。向かい合う二人の姿は西日を浴びて美しく「あんたぁ!」その二人の身体の表面に、俺の影が落ちていた。
 ……くそ……
 俺は背を向けた。向かいの屋根には夕日があって、その金光が目の奥に差した。庭には松の木が並び、密集した針葉を金色の光の筋が貫いている。その足下では紫色のトルコ桔梗が鮮やかに咲き……ぁぁあああああ!背後に狂った声が迫った。

 瞬間、激しい痛みが腰を突いた。

「あひゃぁはは、はははは……」振り向くと、よだれまみれの叔父の顔があり、俺の腰にナイフがあり、しわくちゃの手がそれを握っていた。水風船に刺したナイフをイメージした。「えっへっ、えっ……」白目を剥いた叔父の顔が嬉しそうに歪み、ナイフが鈍い痛みを残して抜けた。
 きゃぁああああああ!叔母の叫びが辺りに響いた。
 俺の腰から鮮血が噴き出した。放物線を描いてドクドクと噴き出した。その強弱は胸の鼓動と一致して、腰の痛みはぼんやりとした高熱に変化した。噴出はその力を次第に弱め、快楽的な目眩が襲い、俺の膝がガクンと折れた。
 頬に地面の砂粒を感じた。
 いつだったか……「子供なら女の子がいい」そう答えたことがあった……いつだったか……「シーツを見せて」の要求を頑なに拒んだことがあった……
 呼吸が深くできなくなった。
 いつだったか……それは美しい夜だった……跡形もなく道路になった陽子の家や……「馬場」という表札のある母と過ごしたあの家……枝の向こうを落ちて行く夕日……打ち寄せる波……
 どうしようもない寒さが全身を襲った。
 いつだったか……しわくちゃのシーツ……誰か分からない笑った口もと……俺の部屋……肉わたの飛び出した腕……満員のクラブ……後れ毛のほつれた細い首筋……集まってくる脚……脚……脚……
 俺は目を閉じたか、視力を失った。
 いや『脚』は現実だ……だがそれももう意味がない……全ては不可避的に訪れて不可逆的に去って行く……俺の分からない言葉で話す俺が俺を動かし、動いた俺を俺が見る……そうだ……差異はますます乖離して消滅するまで収束しない……
 究極的な快楽が全てを包んだ。
 優しく微笑む母の顔……嬉しそうに喘ぐ文香の顔……おどけて笑う陽子の顔……笑顔、笑顔、笑顔……純白の光……そして……何だこれは……いや……もういいじゃないか……

 やっと、終わったんだ


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