LOGOS for web

完結した夏
「結構おいしいんだよ」
 陽子は陶磁の器を二つ並べ、また部屋に戻って行った。コンソメの匂いが立ち上った。俺はタバコを光らせた。オレンジ色の光が口を目がけてパチパチと浸食した。陽子がグラスを片手に出て来た。ジンソーダ。やはり月は純白だった。
 グラスとビンをカチンと合わせ、ポトフをすくって口にした。上出来だ。
「どう?」
「うん」
 陽子が笑った。
 夜風が心地好く身体を吹き抜け、開け放たれた部屋からテクノのリズムが流れ出している。紫色に照らし出された陽子はターバンを脱ぎ去り、肩に届かない髪を風になびかせた。
「私ね」陽子がジンを口にした。「今、妻子持ちの人とつき合ってるの」
「うん……」
 陽子が指でグラスをもてあそんだ。「その人、夜の過ごし方がすごいうまくて……」陽子がジンを口にした。「そう……最高なの……」
「うん……」俺は音を立てないようにスプーンを置いた。
「THREEで知り合って……お互い、相手の空気を認めてた……それで……」
 陽子が笑った。
「私、なんでこんなことしゃべってんだろう」
「……いいセックス、だった?」
 陽子がうなずいた。「だからつき合ったの」陽子がポトフをすくった。「みいちゃんに言われると、なんか、へん……」陽子が笑った。
「うん……」
 俺はコロナを口にした。陽子が髪を押さえながらポトフを口にした。鉢植えの枝葉が夜風にそよいだ。
「……その人、一流の商社マンで……この部屋も、その人に借りてもらってる……」
「うん……」
 ロウソクの炎が急激に伸び、縮んだ。陽子が脚を組み替えた。俺はコロナを口にした。高速3号からガタンとトラックの通過音が聞こえた。部屋から流れて来るリズムがいつまでも繰り返されている。
「これ、テクノ、だよね……」
「あ、そうだ。みいちゃんにレコード貸すんだったよね。じゃあ、ちょっときて」
 陽子は立ち上がると、部屋の方に歩き出した。歩くたび、陽子の腰が妖艶に上下した。歩くたび、カーゴパンツ越しの陽子の尻が柔らかく弾力的にうごめいた。歩くたび、赤らんだかかとが前後した。
 部屋に入ると、陽子が壁からあちこちとレコードを引っ張り出した。
「みいちゃん、プレーヤー持ってるよね?」
「え……あ……CDのなら……」
「え?」陽子の顔がひきつった。「そう」陽子はレコードを壁に戻した。
 緑のライトに照らされて、フロアーは幽玄に淡かった。テクノのリズムに満たされて、フロアーは幽玄に淡かった。緑のライトを反射して、陽子の髪が艶やかだった。髪が揺れるたびに見え隠れする、陽子の首筋が艶やかだった。腕を動かすたび隆起する、陽子の肩が艶やかだった。キャミソールの曲線で分かる、陽子の腰が艶やかだった。フロアに座って軽く押し潰れている、陽子の尻が艶やかだった。
 俺は陽子に手を伸ばした。「よう……」陽子が振り向いた。


9(近)-3へ
BBSに感想を書く
著者へメール
寄付
back