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完結した夏
「これは?」陽子がCDを差し出した。「あ……」俺はそれを受け取った。「うん……」陽子が立ち上がった。
「それ、いいよ。AOA。BALZACで流れてたやつだよ、覚えてる?」
「うん……」俺はそれをライトに照らしてみた。「ありがとう……」
 陽子が笑った。少し遅れ、俺も、笑った。
 ベランダに戻り、少しの間飲み直した後、俺は玄関で靴を履いた。陽子は脚を休ませて立ち、それを見ていた。陽子の背後には閉められたドアがあり、それはレコードの部屋の隣の部屋だった。
「そのドアは?」
「これ?」陽子が髪を掻き上げた。「ベッドルーム」
「見ても……」陽子が首を横に振った。「だめ」
「うん……」俺は笑みを繕った。「じゃあ、これ、借りるね……」俺は玄関のドアを開いた。「どうやって、返せば、いいの?」陽子がドアの外まで見送った。
「ここに持ってきて。いつでもいいから」陽子が笑った。
「うん」俺も本当に笑った。
 マンションを出て、山手通りに出ると、東の空が白んでいた。スズメの声が響き、カラスの声が響き、一匹のセミが鳴き始めると、つられて他のセミも鳴きだした。
 道を下り、手にしたCDを朝焼けの空にかざした。傾けるたびに七色を放つその表面には、背後の陽子のマンションが、極めて鮮明に映し出されていた。


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