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完結した夏
 10(現)

 部屋を窓から飛び出した。屋根の間を流れる雲がよかった。
 ゲスな女の股の匂いが高貴な男をゲスにする。愛とはそうしたものをも含んでいた。そして雲が流れていた。
 美しいスズムシの声。絡むようにコオロギの声。
 それらは四方から光の粉のように降り注いだ。夏夜に羽織ったオーバーコートは、それでも蚊の針撃を許した。
 もはや世界の創生主は金ではなく、人でもなかった。陸橋を通過する車窓の明かりは、資本家のものですらなかった。外灯に虫が群がるように女に取り巻かれたい願望を誰もが持ち、俺は持たなかった。
 俺は自らの心音を煩わしく感じた。自らの呼吸音に耳を塞いだ。だが、それは叶わなかった。自然から分離した人間は、自然のことを知り尽くしたのだ。 
 そして、もはやそのようなことを聞きたくはない。いや、聞かないでいたい。疲労や苦労や労災や、病気や狂気や監禁や、愛や膣や陰茎や……
「従うこと」
 それは徹底的に決別することだ。


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