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完結した夏
「いつも起きるの5時すぎだから。目がさめて、しばらくベッドのなかでまどろんで、タバコをすって……あ、それから、ベランダに出てまっ赤な夕焼けの空をながめながら、目覚めのコーヒーを飲むのが好き……今はそれがいちばん幸せな瞬間……」
 陽子が外に顔を向けた。鮮やか過ぎる青空。「……今は……それが……」ヘアバンドで集められた陽子の後髪が暴れていた。
「……どうしたの?」
 俺の問いに、陽子の後ろ頭は空を見上げたままだった。「何か、あったの?」
 陽子は物憂げに振り返り、目を落とし、コーヒーを口にした。「私、こんなこと言う人じゃないはずなのに……どうしたんだろう……」
 陽子はレコードの壁を見上げた。
「……とにかく……みいちゃんに言うようなことじゃないから……」
「……彼、とのこと?」俺はマグカップを床に置いた。「……何か、ひどいことでもされたの?」陽子は答えなかった。「……会って、くれないの?」陽子はじっと、答えなかった。「……お金をくれないの?それとも奥さんが……」俺は身を乗り出した。
「ねえ、ようちゃん!」
 リズムが高揚の極限に達していた。鮮やかな青空が差し込んでいた。陽子は壁を見上げたまま、遠い目で沈黙するだけだった。


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