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完結した夏
 婦人は恍惚とした表情で写真に目を戻した。
「そう美佳子は……美佳子は、許してくれたのよ……あんなひどい仕打ちを……何て優しい……私がその立場だったら、許せたかどうか……ううん、無理ね……まして、友達でなんて、いられない……この時だけじゃないわ……結婚してからだって……」ハッと口をつぐんだ。
 異様な空白だった。
 俺は身を乗り出して、婦人の顔を覗き込んだ。婦人の目は俺だけを避けるように泳いでいた。
「……結婚してからも、パパと、仲良くしたの?」
 婦人が危なっかしい手つきで番茶をすすった。
「う、ううん、そうじゃなくてね……その……と、とにかく美佳子を恨まないであげてね?美佳子は、その……感情に対して一生懸命なのよ……その……水面ちゃんの頭をそんな風にしちゃったのも、愛情の裏返しなのよ……分かるでしょう?」
 俺はゆっくりとうなずいた。婦人は慎重な手つきで番茶をテーブルに戻した。
「おばさんは、ママを、ゆるして、くれますか?」
「許すだなんて……」婦人の顔が悲しげに和らいだ。「……水面ちゃんは、お母さん思いの優しい子ね」
 婦人はいたわしげに微笑んで、俺の頭を優しく撫でた。
「水面ちゃんは優しい子だから、お母さんの言うことを良く聞いて、いっぱいお手伝いしてあげてね……美佳子は強がっていたけど、英人さんは死んだ時に今のお家しか残さ……こんなこと水面ちゃんに言っても仕方がないわよね……とにかく……美佳子が一人で水面ちゃんを育てていくっていうのは、すごく大変なことなのよ……だから、水面ちゃんはできるだけお母さんを助けてあげてね?ね?おばさんのお願い」
 俺は婦人の顔を真っ直ぐ見上げた。婦人の顔の向こうでシャンデリアの明かりが柔らかだった。
「はい」


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