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完結した夏
 ブースの男の鋭い視線がフロアを伺う……来た!最適な移行に歓声が上がる。女のだぶついた肉が揺れる。ゲイの腰がしなる。男の爆発した青い髪がざわめく。
 俺の身体の底からも、こらえ切れない躍動が沸き起こる。
 そうか……身体はリズムだ……だがなぜだろう……身体の躍動とは正反対の、この、精神の静けさは……まるで早朝の靄の中で波紋一つ立てない湖面のように……そして……そうか……俺は身体をまるごと持って行かれたようだ……いや……身体から解放されたようだ……すぐ目の前で俺と同じ動きをするこの白人女……ジョディーフォスターを少しセクシーにしたような……じっと俺の目を覗き込んでいる……いや、目の中のこの静けさにいる俺を見詰めている……そして俺もこいつの中のこいつを見詰めている……遥か遠いところでリズムが流れ、そこで俺の身体とこいつの身体が触れるか触れないかの距離で踊っていて……だが、精神体の俺とこいつは湖上に浮かび、雲のような姿で性交している……女の目の奥が覗いている……女の目の奥を覗いている……『精神的性交』?……それもいい……陶酔がある……
 突然、腕をガクンと後ろに引かれた。陽子だ。陽子は女を一瞥し、俺の手にグラスを持たせると、身体を密着させて踊り出した。女は軽く微笑して、踊りながら離れて行った。いい時間だった。
 今度は陽子が俺に仕かけた……目を合わせ、陽子の中の陽子で俺の中の俺を覗き込む……合わせた腰を水のように波打たせ……俺の身体を手で辿り……そして陽子の表情が次第に艶を帯びて来る……濡れた唇……微笑を含んだ口もと……瑞々しい肌……誘惑の目……それらが俺を子宮のように包み込み……陶酔させる……
 陽子はあの女が俺からすっかり離れたのを横目で確認し、もう一度俺を見て、振り返ってカウンターに戻って行った。だが、陶酔は、リズムによって、なおも時空を無限に広げつつあった。
 点滅する暗がり。間隔狭まるロッキーの木霊。身体の先端を巡るテキーラ。そして肉体、肉体、肉体。
 やがて宇宙が込み上げて、すべてはまるごと脈打った。


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