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完結した夏
 陽子の指がページをめくった。手の甲には青い血管が透けて見え、手の腹は少し赤らんでいる。バスローブの襟が後ろに空き、美しい首筋が見えている。後れ毛がうなじでカールし、耳殻が少しだけ赤らんでいる。
「このあいだ、THREEどうだった?」
 陽子の指がページをめくった。俺は陽子の腿に手を伸ばした。バスローブの裾をはだけさせ、風呂上がりのきめ細やかな肌の感触を楽しんだ。
「ああ」
 陽子の指がページをめくった。俺はうつ伏せに寝転んだ。シーツのしわを手で伸ばし、鼻を押しつけて洗剤の匂いを嗅ぎ、パリッとした感触を頬で楽しんだ。
 エアコンの涼しい風が俺の背中を通過した。隣の部屋からテクノの低い4ビートが延々と繰り返されていた。窓から広がる金光の部屋で、俺はベッドに横たわり、陽子は隣でページをめくっている、それが心地よかった。
 陽子の指がページをめくった。「……みいちゃん」「ん?」ページに目を落とす陽子の横顔が向こうに傾いた。「夏って言ったら、なに?」陽子の唇がタバコを吸った。
 俺は仰向けになった。「夏は、夏だろ」「そうじゃなくて」俺もタバコに火を点けた。「例えば……海とか、川とか、プールとか……ヒマワリとか、セミとか、絵日記とか……そういう意味で」
 金色に染まった天井で、俺と陽子の煙が混じり合いながら漂っている。
「……冬の海、氷の張ったプール、温室栽培のヒマワリ。だから、夏は、夏以外では、ありえない」
「いじっぱりね!」陽子の膝からバサッと写真集が滑り落ちた。陽子が俺に覆い被さり、両手で俺の首を絞めた。「……ゲホッ」タバコが俺の口からシーツに落ちた。
 電話が鳴った。
 陽子は絞めていた両手を放し、俺の口に口づけると、ベッドを下りて出て行った。音の聞こえた方向から考えて、電話はキッチンにある。俺は落としたタバコを拾い上げた。白いシーツが黒く焦げ、小さな穴が開いていた。
 俺はタバコをくわえてシーツを引き剥がし、持ち上げて窓にかざした。金色に染まったシーツの一点の穴から、まぶしい金光が目の奥に差し込んだ。美しい。
「誰?そんな人、知らない……知らないって言ってるでしょ!……それが?」
 開かれたドアの向こうから掠れた陽子の声が聞こえてくる。
「……なんで……なんで今さらそんなこと言うの?」陽子の小さな手が見えて、部屋のドアが閉じられた。


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