LOGOS for web

完結した夏
 俺はシーツを手放し、床に転がっている写真集を拾い上げた。鼻先に見えるタバコの火種が口に近かった。……ちょっと待ってよ……閉じられたドアの向こうから、陽子の声がまだかすかに聞こえる。
 俺はパラパラとページをめくった。……そんなこと、あなたに関係ないことでしょう?……親指から色とりどりのページを次々に落下させた。「……これ」適当に止め、開いた。
 青空を背景に、下から見上げる角度で写された狛犬の写真だった。
 そうか……陽子はこれを見て……懐かしい……そう言えば、俺はあの四葉のクローバーをどうしただろう……確か……教科書に挟んで……押し入れの……ドアの開く音がした。
 振り向くと、バスローブの袖から伸びる陽子の手が、じっとドアノブを握っていた。思い詰めた陽子の顔があった。
 ドアノブから指が一本ずつ、滑り落ちるように離れた。陽子の足首がゆっくり目の前を横切った。バスローブの裾が膝に乗って柔らかく上下した。化粧台の椅子を引き、座り、バスローブ越しに尻が潰れ、陽子の身体が鏡に向かった。
 俺はタバコを揉み消した。
 バスローブの後ろ姿は動かなかった。鏡の中の思い詰めた目は動かなかった。俺は写真集に目を戻した。だが、気にかかってだめだった。俺は写真集を閉じた。
「どうした」……白々しい。
 陽子の首がかすかにうつむき、留まった。差し込む金光を向こうに浴びて、その影は神々しかった。俺は写真集を傍らに置き、起き上がろうとした。「なあ、どう……」
 クシャッ!俺の置いた福沢が握り潰された。
 陽子の頭が深く沈んだ。陽子の嗚咽がかすかに聞こえた。紙切れを胸で握り締めながら、陽子の肩が上下に震えた。
 これは、どう理解したらいい?……全く俺は、白々しい。


26(遠)-1へ
BBSに感想を書く
著者へメール
寄付
back