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完結した夏
 30(現)

 新幹線のシートを背中で倒した。右手の窓に時速二百キロの水田があり、左に座る男の胃袋は腐っていた。
 みんな狂っている……つまり俺だけが狂っていた。
 ミニパトの婦警は血眼で日本中のタイヤにチョークして廻り、杖を突いた老人は日だまりの遊歩道でヒステリックに叫んでいた。集団化した子供は狂喜して声を張り上げ、特殊と一般を混同する者が絶えることはなかった。
 関係よりもそれ自体を愛すこと……そこに答えである問題がある。
 世界を二つにしか分けられない者が時として輝きを放つように、車内販売の女の尻をすり抜けて時速二百キロのトイレに駆け込みたい。山間地帯の田園に巨大な夕日が溶け込むように、切り刻んだ腕の裂け目から鮮血に染まった肉わたが飛び出すように、隣の腐敗臭の口内に汚れ切ったボロ雑巾を時速二百キロ以上で突っ込みたい。
 そして……今、俺のバッグには、慣性の法則に従うナイフがある。


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