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完結した夏
 キッチンの蛇口を捻り、手を洗い、風呂を見て、レコードの部屋をよく眺めながら過ぎ、ベランダに出た。風が割と強かった。
 左右の隅に置かれた鉢植えの葉がガサガサと騒ぎ、だが、空は夏の青だった。春、秋の包み込むようなそれとは違い、刺すような日差しが全身に心地好かった。粉塵で黒く汚れた首都高も、それはそれで夏だった。自尊心が傷ついたのか、あるいは欲求が満たされなかったのか、とにかくその辺りと葛藤していたのだろう陽子が部屋から出てくるまでには、まだ時間があった。俺は椅子を引いて大きく背もたれた。
 文香は?
 そうだ……カラーストッキングを履かせよう……光の角度によって緑色や紫色に変化する……そう、玉虫色のやつだ……あの美しい脚線に、妖艶な色彩を加え……小振りだが艶かしい乳房を片手でつかみ……喜びに歪んだ顔を何度も噛んで……挿入しそうで、しない……そうやって二日間過ごそう……そうだ……それがいい……ようやく陽子が現れた。
「みいちゃ……」「よく考えればいい。俺は帰る」陽子の髪を上げ、首筋に口づけて部屋を出た。
 山手通りは街路樹や遠くからセミの声がして、バイクのエンジン音が紛れるほどだった。左前方のビルは窓から黒いよだれを垂らし、横断歩道の先では工事中のビルが頭にクレーンを乗せていた。坂を上り、246を横切って、薬局の店内で文香の脚線をイメージした。
 そして袋小路に入って行った。右手に薬局の袋を提げ、口にタバコをくわえ、公園では、藪蚊に襲われる子供たちが遊んでいた。俺は足を止め、鉄棒の横にあるスプリングつきの木馬にまたがった。木馬の頭を貫くグリップを握り、子供たちの視線を浴び、そして前後しながら激しく叫んだ。
「文香!今帰ってやるからな!」


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