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完結した夏
 33(遠)

 公園のブランコで、陽子と俺は前後に大きく揺れていた。頭上では、高木が太い枝を四方に張り巡らせていて、葉と葉の隙間から光の筋が差していた。ジーッと煽るようにセミは鳴き、陽子の身体の表面には木漏れ日のかけらが次々と流れていた。
「どっちが靴を遠くまで飛ばせるか、競争ー!」陽子のブランコが風を切りながら下りてきて、地面に最も近づいた瞬間、陽子の右足から白いスニーカーが飛び立ち、木陰を抜けて青空に舞った。
 スニーカーはゆっくりと回転しながら空を泳ぎ……飛行機雲を通過して……砂場よりもずっと向こう……鉄棒の手前に降下して……地面に跳ね返り……転がり……鉄棒を越えて……停止した。
「みいちゃんもはやくー!」陽子が靴のない脚だけ前に伸ばして大きく前後に揺れていた。俺は靴のかかとを外し、地面に最も近づいた瞬間「タァ」足を蹴り出して飛ばした。
 だが、靴はほとんど真上に上がり……飛行機雲さえ越えることなく……砂場の手前で跳ね返り……こちらに向かって転がった。
「ハハハハハ!」左で陽子の掠れた笑い声が前後した。「ヘタクソー!ハハハハハ……」笑い声が前後した。「ハハハハハ……」笑い声が前後した。
 笑い声が前後した。
「おい、あれ、こないだ転校してきた……」公園の入口から、野球帽を被った三人組の少年達が自転車に乗って入ってくるのが見えた。二人の少年は補助輪を片方だけつけた自転車に乗り「……だよ」一番年長に見えるもう一人の少年は、大きな自転車を三角乗りしている。
 三人は公園の外周の道を、ジグザグ運転しながら遠巻きに近づき「……やっぱりそうだよ……」背後に廻り、こちらを見ながら右に抜けて行った。陽子はうつむきながらザッ、ザッと片足で地面を擦って減速し、ブランコを下りて俺を見上げた。
「……みいちゃん、あっち行こ」陽子が片足でケンケンと跳ねながら、飛ばしたスニーカーを拾いに行った。俺も地面に足を擦り、ブランコを停止させると、深く掘れた砂が靴の隙間から侵入した。「はやく、行こ」陽子が俺の靴を差し出した。
 公園を出て雑木林を抜けると、昼下がりの日を浴びた青い水田が地平線の山の麓まで広がっていて、その真ん中に、真っ直ぐ農道が伸びていた。農道の途中には市民プールと清掃工場の煙突があり、左手には住宅地があった。
 陽子はポニーテールを揺らしながらあぜ道に下りた。俺も後に続いて飛び下りると、足下の水田で細長いドジョウが泥の煙幕を巻き上げて逃げた。ザリガニを探して覗き込みながら歩いて行くと、コンクリートの円い筒でできた農業用水の引き入れ口を発見した。両膝を突いて筒の中を手で探ると、鈍い痛みが指先を挟み、徐々にその力を強めて行った。


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