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完結した夏
 玄関は天井の白熱灯によって暖かな光に満ち、その下に、小太りな婦人が立っている。婦人は両手を腰に当て、垂れた乳房の輪郭が肉厚の腹部に陰を落としている。
「掃除も結構ですけど、時間を考えてやってもらえます?ご近所の方、みなさん迷惑してますよ?」
 婦人の険しい顔が挑発的に傾いた。手前には、淑やかに立っている母の後ろ姿があり、膝丈のスカートの下で、二つのかかとが静かに寄り添っている。
「大変、申しわけございません……」
 母が腰からゆっくりお辞儀をした。上半身が軽く傾くと、今度は首から上をゆっくり下げた。婦人はしばらく母を見据えると、玄関に舌打ちを響かせて「お願いしましたからね!」勇み足で出て行った。
「はい、大変、申しわけございません……」
 俺の網膜に婦人の険しい表情が焼きついていた。玄関先に漏れた光は庭の雑草や塀の裏側を照らし出し、その向こうには、明かりの消えた隣家が見えた。
「大変、申しわけございません……」
 コオロギやスズムシが星の瞬きのように声を響かせていた。しかし、母の頭は上がろうとしなかった。
「大変、申しわけございません……」天井からの暖光が傾いた母の背中を照らしている。
「ママ……」俺は歩み寄って、母のスカートの裾を引いた。「ママ……」「しーっ!」
 母が背中を傾けたまま顔を向け、人差し指を口に当てた。
「しーっ……」
 母の顔がしゃがみ込み、ヒソヒソと耳もとで囁いた。「だめじゃない……起きてきちゃ……ママが一緒じゃないと眠れないの?」
「ママ?」母の手が、俺の頭を優しく撫でた。「さ……一緒に寝てあげるから、二階に上がりましょう?」母の顔が優しく微笑み、俺の肩を優しく抱いた。「もう、夜も遅いのよ……」
 母は家中の明かりを落とし、俺の手を引いて二階に上がり、布団を敷いて添い寝した。月光を浴びた障子はぼんやりと青白く光り、外では夜虫が忙しなく、それでいて緩やかに鳴いていた。
 母は頭を撫でながら、優しくヒソヒソと囁いた。「水面……いい子ね……」障子越しの光を向こうに浴びて、母のほどいた髪の輪郭が綿毛のように柔らかく浮かび上がっていた。「水面……いい子……」撫でる腕に生毛が見え、だが、俺は落ち着かなかった。
「ママ……」「しーっ……」母の影が口に指を当てた。「だめよ、うるさくしちゃ……」「……おしっこ……」「我慢しなさい……もう遅いんだから……御近所の人が迷惑するでしょう?」「だって……」俺は両手で陰茎を握った。「ほら……もう寝なさい?」母が優しく頭を撫でた。「だって……我慢できない……」俺は両手で陰茎を握り、両腿で圧迫した。「ママ……」


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