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完結した夏
 影になった母の肩が動いた。「しょうがない子ね……」母の手が俺の下腹部を探り当て「じゃあここで」そして、強く「しなさい」圧迫した。
「ママ!」ジョ……ジョジョ……「しーっ!」下腹部の辺りがほかほかと濡れ、その温かな水が一気に股間を伝い、尻や背中に広がった。「だめでしょう!うるさくしちゃ!」母はヒソヒソと俺を怒鳴り、俺の下腹部を圧迫し続け、コオロギの声が聞こえ、そして、俺は完全に排尿した。
「……済んだ?」醤油を鉄臭くしたような匂いが部屋に充満していた。「もう寝られるわね?」濡れたパジャマが身体に貼りついていた。「さ……いい子だから……」母のスリップの表面が滑らかに波打ち「ね……」母の手が濡れたタオルケットを胸まで上げた。
「明日は花火が上がるのよ……」母の手が、再び俺の頭を撫でた。
 頭上で天井板の長細い木目が幾重にも輪を重ねて淡く照らされている。「花火……」母の手が優しく頭を撫でた。「懐かしいわね……」母の手が撫でるたび、切ないような幸福感が、胸を締めつけるように弛緩させた。
「水面、覚えてる?……パパとママと三人で、一緒に花火を見た夜のこと……綺麗だったわね……」
 綿毛のような母の頭の輪郭がゆっくり天井に回転し、うっとりとした母の顔の向こう半面が、暗がりに青白く浮かび上がった。
「三人で屋根に上って……澄んだ夜空に……赤や、白や、黄色や緑や……」
 濡れた布団は徐々に冷え、身体を動かすたびにグチャグチャと鳴った。
「明日、パパが旅行から帰ってきたら……また三人で一緒に見ましょうね……だから今日は早く寝て、明日は早く起きるのよ……」
 母の顔がこちらに回転し、俺の頭を優しく撫でた。
「ママ……」母の青白い輪郭が首を傾けた。「なあに?」母の手が頭を撫でた。
「パパは……」俺はうつむいた。言葉を飲み込んだ。
「……パパは、何?」母が頭を撫でながら、顔を間近に近づけた。「……ちゃんと言いなさい?パパは、何なの?」母が頭を撫でながら、耳を顔に近づけた。
「パパは……パパは、死んじゃったんだよ……」
「馬鹿なこと言わないで!」母が俺の髪をつかまえた。「ごめんなさい!」俺は両手で母の手を押さえた。「いい?今度そんなこと言ったら、ただじゃ済まないよ!」母の手が俺の頭を前後に揺すった。「あんたを橋の下に捨ててやるからね!いい!?分かった!?」俺の頭を投げ捨てた。


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