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完結した夏
 38(近)

 それは近寄るまでもなかった。部屋の奥に見えるベッドが、ベッドの上の文香の身体が、文香の向こうのカーテンが、壁が、天井が……向こうに見える、何もかもが……
「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ!」俺は玄関に膝を突いたまま、腹を抱えた。「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ!」腹を抱え、うずくまった。「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ!」うずくまり、コンクリートの地べたに額を突いた。「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ……」腹を抱えてうずくまり、沸騰した目頭がコンクリートに滴った。
「ハ……ハ、ハ……ハ、ハ、ハ、ハ!ハッハッハッハッハ……」
 俺の顔が歪むのを抑え切れない。「ハッ……う……ハッ……」よだれや涙や鼻水が額に向けて流れ落ちるのを抑え切れない。「う……ううっ……ハ……」嗚咽が漏れるのを抑え切れない。
「うっ……くそっ……くそぉ……くそお……」俺は顔を上げた。血に染まったカーテンが赤く発光していた。「くそおおお!」俺は自分の腕に噛みついた。渾身の力で噛みついた。前歯が肉に食い込んで、ぷりぷりとした生温かい感触がした。鉄臭い味がして、その液が滴った。

 ……少女のように下着を露出させ、地べたに座り込む文香に手を差し伸べた。文香はじっと俺を見詰めたまま差し出した手に手を伸ばし、二つの指先は軽くしびれるように触れ合った。絡み合った……

「くそおぉ……」

 ……一言も交わさず部屋に入り、じっと見詰め合い、互いの服を音を立てて引き裂いた。二つの裸体が向き合って、文香の身体は素晴らしかった……

「くそぉ……」

 ……首から肩に架けての急激な曲線、両肩の鋭利な曲線、三角筋と上腕筋との境目の絶妙な断絶感、そして少女のような指。小振りだが豊潤な形状の柔らかな乳房、見えるが見え過ぎない肋骨、わずかに飛び出した腰骨、涙型の上がった尻。片栗粉よりもさらに滑らかな腿の内側、かわいい膝頭と艶かしいふくらはぎ、そして赤らんだかかと、そして……

「くそ……くそ……」

 ……文香の顔を覆う黒髪を握りながら払い除け、そしてその感触を楽しみ、文香は手のひらで俺の身体の凹凸を楽しみ、互いを深く犯すように見詰め合い、水風船のように柔らかな文香の唇に噛みつき、味わい……

 文香文香文香文香……俺は拳を握り締めた……文香文香文香文香……壁をぶち抜いた……文香文香文香文香……拳に激痛が走った……文香文香文香文香……折れたようだった……文香文香文香……だが、まだまだ不足だった……文香文香……文香……


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