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冷やされる少女
 6

 少女はなぜうつむいたまま話そうとしないのだろうか?僕たちが話しかけないからだろうか?それとも、話すべきであるというこの文脈がそもそも間違っているのだろうか?
 それにしても僕はどうしてこうも彼女のことを考えているのだろうか?確かに彼女以外のことで考えるときでも、これといった意味もなくその考えに執着するのだが、それにしてもこれは実に奇妙な現象だ。いや、今考えたようなことを考えるのは、実は彼女のことを考えたいからに違いない。つまり、彼女のことをなにか特別な事柄にしたてあげたいのだ。なぜ?そう、僕は待っていたのだ。いや、待ってなどいない。僕はこの現実が、僕という存在を絶妙にかわしながら第三者的に流れ去ることを知っている。いやそう信じているのだろう。そのようにして現実は現にやってきては過ぎ去っていくし、また、過ぎ去ったものは決して再び姿を現さない。なのになぜ!あいつはなぜここに留まるのか!あいつはウソっぱちだ!なにも言わないことで『私は偽りません』と思わせて……あんな奴の正直さなんて、本当は正直ではなく『無』なんだ、正直さは嘘をつかないことではなく、本当のことを『言う』ことなんだ!……くそっ……まるで空に反論しているみたいなバカげた気分だ。あいつは冷蔵庫から出てこようともしない、本当に狂った、なにもないことに狂った、気狂い!!!……それはつまり僕のことじゃないか。いや、僕のほうがより気狂いじゃないか。ということは、僕が正直さを装い、僕が意味もなくここに留まり、人を苛立たせ、僕が実は話すことを待たれているというのか?アンナは……アンナが僕を待っている?いやその通りだろう。アンナは少しも……ひるみもせずに……少しも変わらぬ態度で僕を待っている。僕を……僕は、僕は……そう!僕は少女を待っていた!いや、今少女に与えようとしている場所に誰かがくることを待っていた!そうだ、少女はすべての鍵を握る、いや、すべての『始まりの鍵』を握っているのだ!今までここに何人の人がそれらしく近づいて僕たちを欺いたことだろう!そしてどれだけ僕たちを疲れさせ、また、疑り深くしたことだろう!そして僕たちを無気力に、……いや、ぼくを無気力にしただろう!あのイスに座るものは自らやってこなければならない。そのものを僕たちは連れてくることはできない、僕たちはただそのものが、座るにふさわしいものかどうかを判断することができるだけだ。いや、どちらかというと、それを最終的に判断するのはこの僕だ。そして今あの少女が冷蔵庫で冷やされている。冷やしたのは他ならぬアンナだ。そしてそれをそのままにさせたのは僕だ。いや……

 いや、また僕は欺かれているかもしれないのだ。


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