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冷やされる少女
 7

 僕は再び立ち上がれるだろうか?

 とにかく少女を冷蔵庫から『出す』ことにした。そのために僕はまず『立ち上がらなければならない』。以前は歩いていたのだ、そして今僕は立ち上がるのには十分にまだ若い、だから立ち上がることが再びできるはずだ。
 だがここで注意しなければならないのは、以前と同じように歩こうとしてはならない、ということだ。
 僕はまず立ち上がるために、腰掛けに手を突くことから始めた。
 太ももの上にのった両手がなかなか外にずれてくれない。
 少しずつ、少しずつ、外側にずれていく手の感じる摩擦が僕を興奮させる。
 少しでも気を抜くと、せっかくずれ始めた手がもとの位置に落ち込んでしまう。
 そうだ、二の腕の部分だ、そこに力をこめろ。
 くそっ!……いや焦らなくていい、あの子はそのために冷やされているんだ、ゆっくりでいい、ゆっくり確実に上げていけ。そうだ、ゆっくりだ。
 ……なんでこんなにも……



 7.2

 苦しめ……苦しめ……その先にはなにもないけど……



 8

 アンナの背中の筋肉がビクッ、とするのが見えた。それからおずおずと見る感じで僕を振り返った。
 僕の両腕が勢いよく外に落ちたのだ。
 今僕は両肩からぶらさがっている手の先に血が、血流が充満して重くなって、それも上に昇ってこれないためにたまる一方の重さを感じている。と同時に、膨れ上がろうとするそれに反発する僕の腕の形、皮膚で出来た袋の形もまた感じている。アンナはまだ僕を見ていた。まるでなにかを注意深く、慎重に見定めるように。ように?いや、見定めているのだ。
 僕は「そう」(OuiでもSiでもYesでもなんでもいいが)と言いかけたがやめた。もし言っていたとしてもあやふやなうめき声にしかならないだろうが、(もちろんそれで意志が伝わることはほぼ間違いないが)やめたのはそういう理由からではなく、自分の力で立ち上がらなければなんにもならないからだ。(自力で立ち上がるとなんになると聞かれても、それでもなんにもならないと答えるだろうがとにかく)



 9

 アンナもわかっていた。だからこそ手伝う素振りも見せなかったのだ。僕は(まだおぼつかない足どりだが)なんとか立ち上がることができるようになっていた。といっても、まだそれは十秒にも満たない時間だったが。腐れかかった床板に這いつくばり、両腕を震わせながら立ち上がろうとするのだが、すぐに力尽きてまた這いつくばる。
 目の前で人形が、首を不自然な方向に向けて、僕と同じように転がっている。


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