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冷やされる少女
 13

 僕たちはそれぞれのイスに座って向かい合った。もはやここには完全なデルタ(=三角形)が存在するような気がした。それぞれは沈黙のうちにすべてを語り合った。そうなんだ……僕は自分が何かを悟ったという思いにとらわれていた。つまり僕はすべてを『支配しようとしていた』。しかしそれは『不可能だった』。僕はアンナのイスにも、僕のイスにも、そして少女のイスにも、すべてに同時に座ろうとしていた。それゆえに『不可能だった』。そしてその三つに座ろうとした僕は、『どこにも座らないでいた』。それがこの一連のすべてだった。
「あなたが話せる日をどれだけ待ちわびていたことか」アンナが言った。
「僕はあなたたちのぶんまで話そうとしていたんだ、それがわかった、だから話せるようになった、ありがとう、僕を疑ってくれて、僕を信じてくれて、僕を甘やかしてくれて、僕を虐げてくれて、僕をあきらめてくれて、僕を期待で押しつぶしてくれて。僕はもう欲張ってあなたたちのぶんまで話そうとはしない、それはあなたたちにすっかり任せることにしたんだ、でも忘れないでほしい、あなたたちは僕のための道具にしかすぎない。それを忘れたなら、僕たちは、特にアンナのイスから、この部屋はもろくも崩落していくだろう」
「あの……」少女が言った。
「なんだ?」僕が言った。
「私……その……」
「理由なんていらない、一緒に生きていこう」
「そうね」アンナが言った「それが楽しいわ」そして天を仰いで笑った。



 14

 あるときは風に、ある時は闇に葬られたかもしれない僕の存在の、すべては僕が生まれ変わるために費やされた。身体の細胞は200日強ですべて入れ替わる。冷やされた少女の前に座っていた少女はある時を境にみるみる歳をとり、ついには永遠の老婆となって燃え尽きると、そのまま鈍く輝くめのう石となってどこかへ消えてしまった。いずれ彼女もそうなるだろう。だがそれは僕にも、ましてアンナにも、かならず訪れる必要不可欠な『時の踊り』であるように、僕たちは語りかけるのだ。やがてその必然からくる内的かつ自発的な変化……つまり死……は世代を越え、人の心さえ越えて、はるかな機械世紀の幕切れまで持ちこたえられる100年の石となるのだ。それは冷やされる少女たちの晴舞台であり、つまりオペラの舞台の中央の最前列であり、また僕の奏でる脚本の、あるいは煮えたぎる劇場であるアンナの、その中のone−century stone(世紀の石)の輝きのうちのほんのかすかなうめき声として幾千もの耳に触れることになるだろう。やがて言葉は、いや意味はそこから生まれ出でる泉として人々の目の前に開かれたそれらの一部分として生き残る闇の、石の、激しく空高く吹き上げる噴泉のわれわれは一つの部品となって使い捨てられよう。


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