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行くな
 次の日も、ナミは仕事に行かなかった。それは僕も同じだった。

 僕たちは一日中裸のまま、抱き合ったり寄り添ったりした。ベッドで一緒に横たわりながら、同じタバコを交互に吸ったり、一つの椅子に<だっこ>の状態で一緒に座り、同じ本を読んだりした。もちろん、食事も入浴も一緒だった。電話があんまり頻繁に鳴るので、二人で窓から投げ捨てた。その光景は悲しかった。青空の中を舞って行く電話機の本体から、コードレスの受話器が離れながら落ちて行ったのだ。それを見て僕たちは余計に強く抱きしめ合った。

 僕たちは以前よりも、いや、今までで一番愛し合っていると確信していた。だから僕たちはもっと愛し合えるはずだと思ったし、お互いにそれを強く望んでいた。だから朝早く起きがけに、またあるときは夜通しベッドの中で、どうすればもっと愛し合えるかを話し合ったりした。
 そこで二人が出した結論はこうだった。

 1)愛とは物理的な距離によって表される。であるから、二人の密着面積は一ミリ単位のレベルにおいて、それを広げたり保持したりしなければならない。
 2)愛とは精神的な交通、つまり相手を意識する時間の量によって表される。であるから、二人の交通時間量は一秒単位のレベルにおいて、それを増やしたり保持したりしなければならない。

 この二つから考え出したのが、二人の身体を向かい合わせたままロープか何かで縛り合わせ、そして眠っている時間は相手のことを意識できないのだから、極力眠ってはならない、ということだった。

 そしてそれは実行に移された。
 密着面積を広げるために脚を互い違いにする、つまり相手の脚の間に自分の片方の脚を入れる、あるいは相手の片方の脚を自分の脚の間に挟む、という方法を思い付いたのは賢かった。もちろん密着の厳密さを求めるために、二人が裸だったのは言うまでもない。ナミはさらに自分の髪を僕の髪と編み合わせるべきだと主張したが、それは僕の髪の短さに起因する技術的な不可能性から断念した。

 今や僕たちは名実ともに、完全に一体となっていた。

 排泄のときはバスルームに行き、立ったまま互いに互いの腿を濡らし合った。また、タバコを交互にではなく、同時に二人で吸う技術も体得した。それは唇をぴったりと重ね合わせ、横からタバコを差し込んで吸い込むというものだった。縛り合う前に大量に買い込んでおいた食料も、それを流動性のものを選んでおいたことによって、その方法を流用できた。
 ただ、性交できないのは残念だった。性交すると、その体勢の形式上、密着している面積が狭まってしまうのだった。これでは断念せざるを得なかった。仕方なく、互いに互いの性器を擦り合って我慢した。


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