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プジョーでペリエで
 あなたに関係する仕事がだめになったの、話があるからちょっと来て……と仕事の目で連れ出して、さんざんグチを聞かせたあげく……今日、ピル飲んでるから……と曖昧に予定を提案し、間髪入れずに……その前に買い物行ってもいいでしょ?……と確定させる。

「ああ」そして僕は抗わない。リコの巧みな誘導に抗うには、僕はあまりに疲れ過ぎている。これで、今日も一日が消えた。
 時々、自分はどうしてリコを受け入れないのか、と疑問に思うことがある。僕の仕事を取ってきてくれ、しかもいい女で、どうして拒絶する必要があるのかと思うことがある。
 あるいは、自分は、この曖昧な関係を楽しんでいるだけではないかと思うことがある。
 あるいは、自分は、今ものすごく幸せなところにいるのではないかと思うことがある。
 だが、その直後、書きたいときに書けない自分が意識され、また、リコは僕の小説を認めたのではなく、僕自身を認めたのではないかという猜疑心に囚われる。
 すると、リコがネチネチと粘つき、アメーバみたいにグチャグチャとした物体に見えてくる。弱くて、甘ったれで、しかもそれに目を背けつつ、強くて自立した女を装い、そうして、自分の不安を他人を取り込むことで埋め合わせる。
 拒絶される恐怖を消すために無意識に身につけた巧みな話術、拒絶された恐怖を消すために無意識に働く都合のいい忘却、記憶の置き換え、対抗拒絶……そのどれもが、リコの弱さと不遇とを物語り、哀れさと健気さを呼び寄せる。
 だが、そんなものは誰だって同じだ。僕だっておそらくそうだ。
 母子家庭に育ち、母は仕事のため、毎日朝から夜遅くまで家を空けた。それは仕方のないことだ。僕を育て、自らも生きて行かなくてはならないのだから。
 だが、僕は不安だった。夜毎、玄関に座って母を待ち侘びた。母の帰宅する時間が近づくにつれ、僕の頭の中で不安が膨脹していった。

 ……母はもう帰ってこないかもしれない。
 ……僕は一人ぼっちになるかもしれない。
 ……僕は母に捨てられて、一人ぼっちになるかもしれない。
 ……もしかしたら、僕はもう母に捨てられていて、一人ぼっちになっているかもしれない。


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