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とにかく書き始めるんだ
未来予想図。その航海図の中央に羅針盤を乗せて、右目に黒い眼帯をした航海の男が、地図のうえに人差し指を滑らせている。髪は短く、透き通るエメラルドグリーンだ。その背後を二羽のカモメが飛び交っている。その口に細長い黄色いタンポポをくわえて。タンポポの花びらは赤ちゃんの被るタオル地の帽子の淵だ。淵は何度もお下がりを繰り返したために茶ばんでいる。まるで古い画布のように。画布の目はほころび、素敵な影を画面に飛び出させている。まるで煉瓦造りの家のように。その家の三階の窓には、さっきから道を見下ろしている頬杖をついた少女がいる。少女はなかば失った意識を道のうえに捜している。道にはしかし何もないのだ、往々にして。僕はその中を歩く。歩かなければならないのだ、なぜなら道があるから。道は歩くためにあるのであって、それ以外でもある。つまり僕には何も言えない、いや、言える何かなど見たことがない。あるのはつまらない言葉と引き入れられる言葉だけだ。その背後に矢を引いて身構えているオリオンがいるかいないかに過ぎない。西郷山公園の入り口からは空だけが見える。小高いのだ。それが非常な重要性を帯びて僕の脊髄の首の辺りに迫ってくる。延髄ではないので間違いのなきよう。歩くといえば、ある男が正立方体の大きな旅行カバン、それも皮張りの鞄を提げて歩いていた。その横から配達のホンダスーパーカブが飛び出してきてそのまま過ぎ去っていった。何もないのだ、ようするに。何かが起きるには、何かを起こさなければならない。例えば僕の脳だ。それさえいじれば、ほんのちょっとでもいじれば、全ては奇想天外になる。誰か僕の脳をいじってメチャクチャにしてくれるものはないか?……芥川風に。


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