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金魚
 背中にタイルの冷たさを感じて、瞼を開くと、ぼやけた視界の中に二本の細い足を見つけた。「マユ、金魚、食べちゃったの?」この女は狂っている。私は狂っていないし、狂いたくない、ガラスの世界に引きずり込んだこの女を消さなければ、球体を破壊しなければ、風は手に入らない、私には新しい風が必要なんだ。
「消えてよ、早く消えてよ、消えろ!」喉が熱い、「あんたはfakeだよ、私はガラスの世界なんていらない!私には、新しい風だけがrealなんだよ!」
 私はかすれた声で叫び、シャンプーボトルを投げつけた。半開きのドアには、もう、白い足はなかった。ひどく酸っぱい匂いが鼻をつき、目が覚めた。
 どれくらいの間眠っていたんだろう。起き上がろうと右肘をつくと、指がまだヌルヌルした液体でべとついていた。早くシャワーを浴びよう……蛇口をひねると、湯気と一緒に水の勢いが生み出す小さな空気の流れが、私の硬くなった身体を包み込んでくれた。温かい……身体の輪郭が溶けてゆく……風だ、新しい風が確かに吹いている。この狭いバスルームで、一つ目の新しい風を見つけた。溢れる涙はシャワーの雨に流されてゆく。「この風を生きている限り、記憶から消すことはないだろう。そして、違う風の吹く処へ行こう。一つの場所には一つの風しか吹かないのだから……」
 数日後、ガラスの破片が散りばめられた部屋を捨て、風の吹く世界を探しに、スーツケースに荷物をまとめた。バスルームの風とは違う風を感じることができたら、ハガキを送ろうと思う。『ミカ、あなたは、金魚を食べてはいない』ピルケースを開け、ガラスの小さなかけらを確認して、私は歩き出した。


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