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MadarA
 ∞3∞

 その話を聞いたのはいつだったか多分、夢の分析についての本を探していた時、髪が腰まである月のように青白い顔の男が近づいて来て、血の色ってどんな色かしっている?薄笑いを浮かべながら聞いてきて、黒と黄色のまだらと答えたら、だまったままだったから、あなたのお母さんのお尻の穴の色をしっていますか?と尋ねたら、薄笑いはぴたりと止まって、ますます青白くさせた顔に汗が噴き出してきて、こめかみから頬に到達するまで、瞬きもせずに眺めていたら、男は後ずさりしながらわたしに背を向けることなく、本棚の角まで行くと急に走ってどこかに行ってしまった日だと思う。
 ジーンズの後ろポケットからバイブレーションを感じて携帯電話を取り出すと、EWEFの四文字が浮かび、小さな待ち受け画面が点滅していて、今日が金曜日だった事に気づいた。
 EveryWeek
 EveryFridayの略でEWEFとメモリしてある。毎週金曜日に会う人からのコールだ。
 今日、6時にあの場所にいてくれ、それだけ告げるとすぐに切れた。
 わたしは名前でケータイにメモリしている人はほとんどいないと思う。人の名前を憶えるのはあまり得意ではないし、呼ぶこともないので、特に問題も無かった。自分の名前も気に入らないので、リカとかレイコとかアヤとか適当に呼んでもらうこともあったが、男の人には<君>と呼んでほしいと必ず伝える。
<君>と呼ばれると何故だか、不安のような感覚が和らぐ気がした。


 ∞4∞

「君は最近逢う度顔色が悪くなっているよ。僕といる時だけでも、しっかり食事してくれないか」
 45才、B型、広告代理店部長、妻子持ち、左ききの彼は、いつも同じ事を言っている。キレイなレストランでドレスアップしたわたしに、わざわざそんな事を言う為に連れて来たのだとしたら、あの猫の夢より更に悪夢だと思う。新しいドレスなんて買わなければ良かったと後悔し始め、向かい合う彼から視線をはずした。白ワインを一本空けて、頭がぶよぶよになった頃、彼はまた、ほとんど食べなかったな、今日も……ウエイターがさげていく皿の上を眺めながら呟いた。それから必ず、僕は君が大切なんだ。どんなことがあっても、僕から離れていく事はないんだよ。綺麗で若い君を拘束するのは、悪いと思っている。君が逢いたいと言ってくれても、家庭や仕事があるからそうできない事もあるけど、こうして逢っている時は、本当に本当に、大切にしたいんだよ、と言うのはもう、彼の癖だろう。
 会いたいなんて電話をする女じゃないのを知っていて、わざわざ口に出すところが、嫌いにならずに済んでいる理由なのかも知れない。


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