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この町の芸術
1999木戸隆行
プロジェクト「LOVE CRAZY-vol.1-」掲載作品

 オープンテラスのカフェで一人、ぼんやりと一点を見つめる彼女はこの町の芸術だ。剥き出しの月のように異様な、地中海沿岸風カフェの造りとそこに並べられたトルコのゴチャゴチャした市場で陳列されている風テーブルの色彩とのミスマッチさにおいてもなお、その芸術は汚れない。それはあたかも月が地球の衛星であるという唐突な告白のような、完全に孤立した夢の中の目眩がするほど赤い一点の砂なのだ。あるいはごく大ざっぱに言って、喧噪に満ちた雑踏のビルの隙間のハッとするような坂道なのだ。そして芸術である彼女は断固として瞬きを拒否する。神を掴んだその視線で世界中の夕日を貫き、一環のかわいらしい首飾りにした後、あの偉大なる同胞のマリア・カラスにそれを贈ろうというのだ。僕もそれには同感した。そしてそれを口の中で彼女に告げもした。彼女はそれを分かってくれた。と言うのは、彼女は自らが芸術であることをやめないように、微動だにしなかったからだ。


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