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「シュウか?今プリントしたんだけどさ、すげーいいのが仕上がったんだよ。お前今日ヒマか?もう見せたくてうずうずしてんだよ」
「そうだな、これからリーリーと約束してるから……5時からだったら空いてるよ」
「5時?!……まあいいよ、じゃ、その時間にギグルでな」
「ああ」そう言って電話を切った。
 通りでは、少年の声がまだ繰り返していた。「Moi,Si.Moi,Si」窓辺に行って見下ろすと、やはり隣部屋の少年だった。石畳の路面の上で、他の少年と立っていた。俺は窓枠に足をかけた。

「No!!!」

 声がして、見ると、通り向かいの少女が俺を見ていた。少女はあどけない顔をうろたえた様子でいっぱいにして、部屋に振り向いたかと思うと「Maam!」と叫びながら消えて行った。通りでは、3人の少年たちが俺を見上げていた。やはりうろたえた表情だった。俺はそのまま飛び立った。体が完全に宙に浮いた。直後、隣部屋の少年の透き通る栗毛色の髪が、青白く、常に不安に満ちている美しい表情が、一気に視界に迫った。と、不意に、まっ赤なベルベットのカーテンが宙に現れ、俺の体を包み込んだ。ベルベットの分厚くきめ細やかな毛足が、俺の肌をいたわるように、なでるように、まるでミイラを包むように、やさしく包んだ。そして井戸を覗き下ろすときに見える、あのまっ暗闇のなかの何かがささやく。

 ほら、私の言ったとおりじゃないですか……

 何体ものモニュメントがじりじりと迫ってくる。じりじりと俺を取り囲む。そしてすっかり取り囲んでしまうと、それらは一斉に外側に向かって倒れながら、頭上の丸く空いた空を押し広げて行く。頭上の、雲一つない空を押し広げる。そして俺はつぶやく。

「ああまただ、空しかない」

 確かにそこには、素朴な色の青空が、ただただ広がっているのみだった。



※本文中の(1)部分は、岩波文庫、A・ブルトン著・巌谷國士訳『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』から引用した。


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